第1回 失神
失神(上) ~起立性低血圧~
2016.8.2
脳の血流不足で発症 こまめに水分補給を
【相談者】
Sさん 50歳男性。暑い日の午後、自宅の庭で草むしりが終わって立ち上がったところ、目の前が白くなって気を失い、その場に倒れ込んでしまいました。しばらくして意識が戻りましたが、心配になって来院しました。
■特徴は?
一過性に意識を失って、姿勢が保持できなくなることを失神と呼びます。意識の消失が一過性で、速やかに、自然に、かつ完全に意識が回復するのが特徴です。
失神は「脳全体に血液が十分行き渡らない」ために起こります。意識消失に先立って、しばしば頭がフワフワした感じや吐き気、発汗などを伴います。
血液中のブドウ糖濃度が低下する低血糖の状態やてんかん発作でも、意識を失い、倒れ込んでしまいますが、これらは失神には該当しません。ただし医師は、意識を失った患者さんを診るときには、失神ばかりでなく、低血糖やてんかんの可能性も考慮して診療します。
■原因は?
失神を起こす原因を表1にまとめました。Sさんのケースでは、起立性低血圧が原因と考えられます。ヒトは寝ている状態やしゃがみ込んでいる状態から急に起き上がると、重力のため血液が下半身に移動して、一時的に血圧が下がります。ヒトの体はうまくできていて、下がった血圧をすぐに元のレベルに戻してくれます。
残念ながら年を取ると、この働きが遅れるため、Sさんのようなケースがよく見られます。夏の暑い盛りに汗をかいて脱水気味になっていると、いっそう起きやすくなります。その他、高血圧や前立腺肥大症の薬を飲んでいる場合、糖尿病やパーキンソン病などにより自律神経機能が障害されている場合にも起立性低血圧はよく発症します。
■対策は?
自律神経機能が障害されている人の場合には、専門的な治療が必要となることが多いので、主治医の先生と相談してください。
Sさんのようなケースには、いくつかの対策があります(表2)。起き上がった直後に頭がボーっとしてきて目の前が白くなってきたら、すぐにしゃがみ込むか横になることです。場所柄、そのようなことが難しい場合は、その場で足踏み運動を繰り返しましょう。下半身に移動した血液を脚の筋肉ポンプで心臓に戻すことで、症状の改善につながります。汗をかいた場合は、こまめに水分を補給して脱水にならないようにしましょう。
高血圧や前立腺肥大症の薬が起立性低血圧の原因になっている場合には、薬を減量する必要が出てきますので、主治医の先生とよく相談してください。朝、床から起き上がるときに低血圧の症状が出やすい人は、いきなり床から立ち上がらずに、まず床の上で上半身を起こし、数呼吸おいてから立ち上がるようにすることで症状を軽減することができます。
【相談者】
Sさん 50歳男性。暑い日の午後、自宅の庭で草むしりが終わって立ち上がったところ、目の前が白くなって気を失い、その場に倒れ込んでしまいました。しばらくして意識が戻りましたが、心配になって来院しました。
■特徴は?
一過性に意識を失って、姿勢が保持できなくなることを失神と呼びます。意識の消失が一過性で、速やかに、自然に、かつ完全に意識が回復するのが特徴です。
失神は「脳全体に血液が十分行き渡らない」ために起こります。意識消失に先立って、しばしば頭がフワフワした感じや吐き気、発汗などを伴います。
血液中のブドウ糖濃度が低下する低血糖の状態やてんかん発作でも、意識を失い、倒れ込んでしまいますが、これらは失神には該当しません。ただし医師は、意識を失った患者さんを診るときには、失神ばかりでなく、低血糖やてんかんの可能性も考慮して診療します。
■原因は?
失神を起こす原因を表1にまとめました。Sさんのケースでは、起立性低血圧が原因と考えられます。ヒトは寝ている状態やしゃがみ込んでいる状態から急に起き上がると、重力のため血液が下半身に移動して、一時的に血圧が下がります。ヒトの体はうまくできていて、下がった血圧をすぐに元のレベルに戻してくれます。
残念ながら年を取ると、この働きが遅れるため、Sさんのようなケースがよく見られます。夏の暑い盛りに汗をかいて脱水気味になっていると、いっそう起きやすくなります。その他、高血圧や前立腺肥大症の薬を飲んでいる場合、糖尿病やパーキンソン病などにより自律神経機能が障害されている場合にも起立性低血圧はよく発症します。
■対策は?
自律神経機能が障害されている人の場合には、専門的な治療が必要となることが多いので、主治医の先生と相談してください。
Sさんのようなケースには、いくつかの対策があります(表2)。起き上がった直後に頭がボーっとしてきて目の前が白くなってきたら、すぐにしゃがみ込むか横になることです。場所柄、そのようなことが難しい場合は、その場で足踏み運動を繰り返しましょう。下半身に移動した血液を脚の筋肉ポンプで心臓に戻すことで、症状の改善につながります。汗をかいた場合は、こまめに水分を補給して脱水にならないようにしましょう。
高血圧や前立腺肥大症の薬が起立性低血圧の原因になっている場合には、薬を減量する必要が出てきますので、主治医の先生とよく相談してください。朝、床から起き上がるときに低血圧の症状が出やすい人は、いきなり床から立ち上がらずに、まず床の上で上半身を起こし、数呼吸おいてから立ち上がるようにすることで症状を軽減することができます。
失神(中)~反射性失神~
2016.8.9
自律神経の働き乱れる 生活リズム整えて
【相談者】
K子さん 17歳女子高生。朝食を取らずに登校することがよくあります。朝礼で校長先生の話を聞いているうちに吐き気がしてきて、目の前が白くなって気を失い、その場に倒れ込んでしまいました。しばらくして意識が戻りましたが、心配になって相談に訪れました。
■原因は?
自律神経には、交感神経と副交感神経の2種類があります。活動をつかさどる交感神経の働きが抑制されたり、休息をつかさどる副交感神経の働きが過度になって、血圧が低下したり脈拍が極端に遅くなったりして意識を失うものを反射性失神と呼びます(表1)。
K子さんのように、長時間立っている状況で起こるケースはよくあります。前回紹介した起立性低血圧は起立直後に起こりますが、反射性失神は長時間立っていると起こるものです。朝食を取らなかったり、おなかの具合が悪くて脱水気味になったりするのも原因となります。満員電車などの蒸し暑い環境で長時間立っている場合にも起こります。
献血のときに血液を見たり、歯科医院で歯をドリルで削ったりしているときに失神する人もいます。これは感情興奮がきっかけとなって、自律神経の働きが乱れて起こるものです。
中年男性に現れることが多い失神に、排尿失神と呼ばれるものがあります。飲酒をした夜中に尿意をもよおしてトイレに起きて、排尿中あるいは排尿後に失神が起きます。
このタイプの失神はほとんどの場合、完全に回復して後遺症を残すことはありません。心配なのは、意識を失って倒れた際に頭や顔面を強打することです。排尿中に失神し便器で頭や顔面を強打すると、頭蓋骨(ずがいこつ)の骨折や硬膜下血腫を起こすことがあります。
■改善策は?
K子さんのようなケースには、いくつかの対策があります(表2)。何よりも規則正しい生活習慣を身に付けることです。寝不足のないように、朝食はしっかり食べるようにしましょう。起立性低血圧の場合と同様に、頭がボーっとしてきて目の前が白くなってきたら失神の前触れと考え、すぐにしゃがみ込むか横になることです。あるいはその場で足踏み運動を繰り返したり、両腕を引っ張り合ったりすることも有効です。長時間の立位や脱水、過度の塩分制限を避けることも大切です。
高血圧や前立腺肥大症の薬は、起立性低血圧ばかりでなく反射性失神に悪影響を与えることがあります。このような場合には、薬を減量する必要が出てきますので、主治医の先生とよく相談してください。塩分を多めに摂取することや、血圧を高める薬が必要になることもあります。夜間トイレに起きると失神を起こしそうになる人は、飲酒を控えることや尿瓶を使うこともお勧めします。
■応急措置は?
表1のような状況で失神を起こした人に遭遇することもあるかもしれません。そんなときは慌てずに対応しましょう。
横に寝かせて、足の下に何か物を当て、下半身が上半身よりも高くなるように保持してください。多くの場合、じきに意識が戻り、青白かった顔色も良くなってきます。
【相談者】
K子さん 17歳女子高生。朝食を取らずに登校することがよくあります。朝礼で校長先生の話を聞いているうちに吐き気がしてきて、目の前が白くなって気を失い、その場に倒れ込んでしまいました。しばらくして意識が戻りましたが、心配になって相談に訪れました。
■原因は?
自律神経には、交感神経と副交感神経の2種類があります。活動をつかさどる交感神経の働きが抑制されたり、休息をつかさどる副交感神経の働きが過度になって、血圧が低下したり脈拍が極端に遅くなったりして意識を失うものを反射性失神と呼びます(表1)。
K子さんのように、長時間立っている状況で起こるケースはよくあります。前回紹介した起立性低血圧は起立直後に起こりますが、反射性失神は長時間立っていると起こるものです。朝食を取らなかったり、おなかの具合が悪くて脱水気味になったりするのも原因となります。満員電車などの蒸し暑い環境で長時間立っている場合にも起こります。
献血のときに血液を見たり、歯科医院で歯をドリルで削ったりしているときに失神する人もいます。これは感情興奮がきっかけとなって、自律神経の働きが乱れて起こるものです。
中年男性に現れることが多い失神に、排尿失神と呼ばれるものがあります。飲酒をした夜中に尿意をもよおしてトイレに起きて、排尿中あるいは排尿後に失神が起きます。
このタイプの失神はほとんどの場合、完全に回復して後遺症を残すことはありません。心配なのは、意識を失って倒れた際に頭や顔面を強打することです。排尿中に失神し便器で頭や顔面を強打すると、頭蓋骨(ずがいこつ)の骨折や硬膜下血腫を起こすことがあります。
■改善策は?
K子さんのようなケースには、いくつかの対策があります(表2)。何よりも規則正しい生活習慣を身に付けることです。寝不足のないように、朝食はしっかり食べるようにしましょう。起立性低血圧の場合と同様に、頭がボーっとしてきて目の前が白くなってきたら失神の前触れと考え、すぐにしゃがみ込むか横になることです。あるいはその場で足踏み運動を繰り返したり、両腕を引っ張り合ったりすることも有効です。長時間の立位や脱水、過度の塩分制限を避けることも大切です。
高血圧や前立腺肥大症の薬は、起立性低血圧ばかりでなく反射性失神に悪影響を与えることがあります。このような場合には、薬を減量する必要が出てきますので、主治医の先生とよく相談してください。塩分を多めに摂取することや、血圧を高める薬が必要になることもあります。夜間トイレに起きると失神を起こしそうになる人は、飲酒を控えることや尿瓶を使うこともお勧めします。
■応急措置は?
表1のような状況で失神を起こした人に遭遇することもあるかもしれません。そんなときは慌てずに対応しましょう。
横に寝かせて、足の下に何か物を当て、下半身が上半身よりも高くなるように保持してください。多くの場合、じきに意識が戻り、青白かった顔色も良くなってきます。
失神(下) 入浴時の危険
2016.8.16
高温浴で血圧低下 飲酒避け家族が声掛け
【相談者】
Nさん 65歳男性。宴会の後、温泉に入っていたところ頭がボーっとしてきて、どうもおかしいなと思い、洗い場に上がった途端、意識を失い、倒れ込んでしまいました。救急車で搬送されてきました。
■原因は?
以前から、特に冬場に高齢者が入浴中に意識を失って倒れたり、浴槽内で溺れたりすることが知られていました。家庭内で溺れ死ぬ事故は65歳以上が大半で、わが国では世界の先進国の中でも飛び抜けて高い件数となっています(グラフ1)。これは湯温が比較的高く、浴槽が深いという日本人の入浴習慣が関係しています。
従来は心臓病や脳出血などが原因で意識を失い、溺れてしまうと考えられていました。ところが、Nさんのように救急車で搬送された方の大半は体温が下がるとともに回復して、麻痺(まひ)などの後遺症を全く残さないことが分かってきました。
最近では、高温浴により血管が拡張して血圧が下がることで意識低下や失神が起こり、救助が遅れるとさらに体温が上昇して血圧がいっそう下がって、溺れて死に至ると考えられています。洗い場での失神は起立性低血圧も原因となります。
入浴中に事故を起こしやすい要因はいくつかあります。入浴者側の要因としては、高齢、循環器疾患の合併が挙げられます。循環器疾患の多くは高血圧です。飲酒は血管を拡張して血圧を下げますので、飲酒後の入浴では血圧がさらに低下する可能性があります。
入浴方法の要因としては、高温で長時間の風呂に入ることが挙げられます。一般には公衆浴場よりも自宅での入浴に気を付けた方がいいでしょう。銭湯や温泉などでは、周囲の入浴者に発見されて大事に至らないことが多いためです。
■予防法は?
入浴中の失神を防ぐには、体温の上昇を軽度にすることが大切です。そのためには、表1にまとめた入浴法を実践してください。欧米の平均的な入浴温度は40度以下ですが、わが国では冬場には43度、夏場は41度と比較的高温となっています。入浴温度は体温と同じ程度、あるいは40度程度としましょう。
入浴温度が体温以下であれば、血圧低下はまず起こりません。肩まで湯につからないことや短時間にとどめること、シャワーで済ますことは、いずれも体温上昇を軽度に抑え、入浴による血圧低下を防ぎます。
また入浴中は家族が時々声を掛けて具合が悪くなっていないか確認することが大切です。温泉につかりながら飲酒することはやめましょう。
もし浴槽内で意識がない状態でいるのを発見したら、すぐに浴槽内から救出するか、顔が湯から出ている状態であれば浴槽の栓を抜いて溺れないようにします。同時に救急車を要請し、心肺蘇生法の講習を受けたことがある人はすぐに蘇生法を実施してください。
■不整脈や心疾患も
心臓は全身に血液を送るポンプの役割をしているので、その機能がうまく働かない場合にも失神が起きることがあります。生命に関わることもあり、不整脈や心疾患による失神の場合は専門的な診療が必要になります。意識を失った経験がある方は、一度は専門の医療機関で検査を受けることをお勧めします。
【相談者】
Nさん 65歳男性。宴会の後、温泉に入っていたところ頭がボーっとしてきて、どうもおかしいなと思い、洗い場に上がった途端、意識を失い、倒れ込んでしまいました。救急車で搬送されてきました。
■原因は?
以前から、特に冬場に高齢者が入浴中に意識を失って倒れたり、浴槽内で溺れたりすることが知られていました。家庭内で溺れ死ぬ事故は65歳以上が大半で、わが国では世界の先進国の中でも飛び抜けて高い件数となっています(グラフ1)。これは湯温が比較的高く、浴槽が深いという日本人の入浴習慣が関係しています。
従来は心臓病や脳出血などが原因で意識を失い、溺れてしまうと考えられていました。ところが、Nさんのように救急車で搬送された方の大半は体温が下がるとともに回復して、麻痺(まひ)などの後遺症を全く残さないことが分かってきました。
最近では、高温浴により血管が拡張して血圧が下がることで意識低下や失神が起こり、救助が遅れるとさらに体温が上昇して血圧がいっそう下がって、溺れて死に至ると考えられています。洗い場での失神は起立性低血圧も原因となります。
入浴中に事故を起こしやすい要因はいくつかあります。入浴者側の要因としては、高齢、循環器疾患の合併が挙げられます。循環器疾患の多くは高血圧です。飲酒は血管を拡張して血圧を下げますので、飲酒後の入浴では血圧がさらに低下する可能性があります。
入浴方法の要因としては、高温で長時間の風呂に入ることが挙げられます。一般には公衆浴場よりも自宅での入浴に気を付けた方がいいでしょう。銭湯や温泉などでは、周囲の入浴者に発見されて大事に至らないことが多いためです。
■予防法は?
入浴中の失神を防ぐには、体温の上昇を軽度にすることが大切です。そのためには、表1にまとめた入浴法を実践してください。欧米の平均的な入浴温度は40度以下ですが、わが国では冬場には43度、夏場は41度と比較的高温となっています。入浴温度は体温と同じ程度、あるいは40度程度としましょう。
入浴温度が体温以下であれば、血圧低下はまず起こりません。肩まで湯につからないことや短時間にとどめること、シャワーで済ますことは、いずれも体温上昇を軽度に抑え、入浴による血圧低下を防ぎます。
また入浴中は家族が時々声を掛けて具合が悪くなっていないか確認することが大切です。温泉につかりながら飲酒することはやめましょう。
もし浴槽内で意識がない状態でいるのを発見したら、すぐに浴槽内から救出するか、顔が湯から出ている状態であれば浴槽の栓を抜いて溺れないようにします。同時に救急車を要請し、心肺蘇生法の講習を受けたことがある人はすぐに蘇生法を実施してください。
■不整脈や心疾患も
心臓は全身に血液を送るポンプの役割をしているので、その機能がうまく働かない場合にも失神が起きることがあります。生命に関わることもあり、不整脈や心疾患による失神の場合は専門的な診療が必要になります。意識を失った経験がある方は、一度は専門の医療機関で検査を受けることをお勧めします。