第35回 尿路結石症
尿路結石症(上)
2019.2.5
血尿 激しい痛みも 薬服用し自然に排出
【相談者】
Tさん 66歳女性。健康診断で血尿を指摘され、しばらく様子を見ていました。最近、尿の色が赤いような気がします。何となく腹部に違和感もあり、泌尿器科を受診してみました。
おしっこの通り道にできる結石を尿路結石といいます。尿路とは、腎、尿管、ぼうこう、尿道から成ります(図)。
■症状は?
腎結石はあまり痛みを生じませんが、尿管に移動し尿管結石となった場合、激しい痛みが起き、吐き気やおう吐を伴って血尿が出ることがしばしばあります。また、ある程度大きな尿管結石だと、尿の流れが悪くなり、腎盂(じんう)腎炎を併発して高熱を生じ、敗血症となることもあります。
ぼうこう結石は尿管結石がぼうこう内に移動する場合と、ぼうこう内で発生してそのまま大きくなる場合があります。小さい結石がぼうこう内を移動すると、ぼうこう炎のような刺激症状が出ます。結石が大きくなると排尿困難といった症状が中心になります。尿道結石は結石が尿道内に移動して止まったもので、時として自分で排尿できなくなる尿閉症状が出たりします。
尿路結石は、尿路のどの部位にあっても血尿になることがあります。
■検査は?
まず尿検査をします。結石が移動した直後は肉眼的血尿になることが多いですが、腎結石、あるいは結石が止まって時間がたってしまうと、顕微鏡でなければ確認できない血尿になることもあります。
腹部超音波検査は、患者さんに侵襲(体を傷つける)のない検査ですが、結石の部位によっては判定困難な場合があり、他の疾患との鑑別的な検査と言えます。最終的にはX線検査となりますが、単純腹部写真で写る結石(シュウ酸カルシウム結石など)や写りにくい結石(尿酸結石など)があります。
また、体内のリンパ管や血管などが石灰化したものは結石と見分けにくいケースがあり、最近は腹部CTを撮影することが多くなっています。超音波や単純写真で分かりにくい結石もはっきり写り、尿路の形態や他の疾患の有無も判別できるので、推奨されています。
■保存的治療とは?
結石と診断した場合、薬を服用しながら自然に体外に結石が排出されるのを待つ保存的治療と、手術などの侵襲的治療があります。
保存的治療では、痛みが強い場合、非ステロイド性抗炎症薬を第一選択として投与します。結石の成分で最も多いのはシュウ酸カルシウム結石ですが、現在、シュウ酸カルシウム結石を完全に溶かしてしまう薬はありません。結石を大きくしないようにして移動させるウラジロガシや猪苓湯(ちょれいとう)などを投与します。結石の大きさが長径1センチまでは尿と一緒に体外に排出される可能性があり、しばらく様子を見ることがあります。自然排出した尿管結石の大きさと出るまでの平均期間を表に示します。
患者さんには水分を取ってなるべく運動してもらい、痛いときは鎮痛薬を使用します。1カ月以上たっても結石が排出されない場合、手術などの侵襲的治療を考慮することになります。
【相談者】
Tさん 66歳女性。健康診断で血尿を指摘され、しばらく様子を見ていました。最近、尿の色が赤いような気がします。何となく腹部に違和感もあり、泌尿器科を受診してみました。
おしっこの通り道にできる結石を尿路結石といいます。尿路とは、腎、尿管、ぼうこう、尿道から成ります(図)。
■症状は?
腎結石はあまり痛みを生じませんが、尿管に移動し尿管結石となった場合、激しい痛みが起き、吐き気やおう吐を伴って血尿が出ることがしばしばあります。また、ある程度大きな尿管結石だと、尿の流れが悪くなり、腎盂(じんう)腎炎を併発して高熱を生じ、敗血症となることもあります。
ぼうこう結石は尿管結石がぼうこう内に移動する場合と、ぼうこう内で発生してそのまま大きくなる場合があります。小さい結石がぼうこう内を移動すると、ぼうこう炎のような刺激症状が出ます。結石が大きくなると排尿困難といった症状が中心になります。尿道結石は結石が尿道内に移動して止まったもので、時として自分で排尿できなくなる尿閉症状が出たりします。
尿路結石は、尿路のどの部位にあっても血尿になることがあります。
■検査は?
まず尿検査をします。結石が移動した直後は肉眼的血尿になることが多いですが、腎結石、あるいは結石が止まって時間がたってしまうと、顕微鏡でなければ確認できない血尿になることもあります。
腹部超音波検査は、患者さんに侵襲(体を傷つける)のない検査ですが、結石の部位によっては判定困難な場合があり、他の疾患との鑑別的な検査と言えます。最終的にはX線検査となりますが、単純腹部写真で写る結石(シュウ酸カルシウム結石など)や写りにくい結石(尿酸結石など)があります。
また、体内のリンパ管や血管などが石灰化したものは結石と見分けにくいケースがあり、最近は腹部CTを撮影することが多くなっています。超音波や単純写真で分かりにくい結石もはっきり写り、尿路の形態や他の疾患の有無も判別できるので、推奨されています。
■保存的治療とは?
結石と診断した場合、薬を服用しながら自然に体外に結石が排出されるのを待つ保存的治療と、手術などの侵襲的治療があります。
保存的治療では、痛みが強い場合、非ステロイド性抗炎症薬を第一選択として投与します。結石の成分で最も多いのはシュウ酸カルシウム結石ですが、現在、シュウ酸カルシウム結石を完全に溶かしてしまう薬はありません。結石を大きくしないようにして移動させるウラジロガシや猪苓湯(ちょれいとう)などを投与します。結石の大きさが長径1センチまでは尿と一緒に体外に排出される可能性があり、しばらく様子を見ることがあります。自然排出した尿管結石の大きさと出るまでの平均期間を表に示します。
患者さんには水分を取ってなるべく運動してもらい、痛いときは鎮痛薬を使用します。1カ月以上たっても結石が排出されない場合、手術などの侵襲的治療を考慮することになります。
尿路結石症(中)
2019.2.19
手術で結石を破砕 体の外から衝撃波
【相談者】
Tさん 60歳男性。尿路結石と診断されました。薬を飲んでいましたが、なかなか結石が出ません。痛みも続くため、泌尿器科を受診すると手術を薦められました。どんな方法がありますか?
尿路結石が自然に排石されず、長期間体内にとどまっている場合、侵襲的治療である手術を行います。代表的なものに、体外衝撃波を用いる方法と内視鏡を使う方法があります。非常に小さな腎結石の場合や、患者さんが重症の尿路感染症を起こしているときは、手術を見合わせることもあります。
■手術法は?
・体外衝撃波結石破砕術(ESWL)
機械で衝撃波を発生させ、結石をこなごなにします。広い意味での手術になりますが、体に穴を開けたり、カメラを入れたりといったことはしません。治療用のベッドの上で寝てもらい、機械を体に当てるだけです(写真➊)。
写真➊体外衝撃波結石破砕装置
通常、麻酔はいりませんが、ある程度の痛みを伴うため、鎮痛剤は使用します。衝撃波1発では壊れず、何発か続ける必要があります。1回の治療に1時間ほどかかります。麻酔が不要なので繰り返し治療できますが、じっとしていないと効率よく破砕できません。また、治療対象は、腎や尿管の結石で、ぼうこうや尿道は対象になりません。
・経尿道的結石破砕術(TUL)
おしっこの出口から結石までカメラを入れて、レーザー破砕機などで細かく砕きます。TULでは、結石を直接観察しながら破砕するので、ESWLより確実性が高く、同時に破砕片を鉗子(かんし)で取り出すこともできます。細径軟性尿管鏡(細くて柔らかいカメラ)とレーザー破砕機(写真➋と➌)を使用することで、尿管の結石だけでなく、腎結石の治療も可能になりました。
写真➋細径軟性尿管鏡
写真➌レーザー破砕機
細径軟性尿管鏡とレーザー破砕機の普及に伴い、近年手術件数が増加しています。手術には麻酔が必要です。
・経皮的結石破砕術(PNL)
背中から腎臓に1センチほどの穴を開け、そこから内視鏡を入れて結石をレーザーなどで破砕します。長径2センチを超える腎結石や腎臓に鋳型のようにはまりこんだサンゴ状結石、尿管狭窄(きょうさく)の場合など、ESWLやTULだけでは治療が難しい場合に行います。やはり麻酔が必要で、結石が大きいほど、また手術時間が長くなるほど、出血や尿路感染症などの合併症リスクが高くなる傾向があります。
手術治療の対象となる結石はある程度の大きさがあることが多く、複数回の治療が必要な場合や他の治療法を追加して治療する場合があります。
・開腹手術
以前は尿路結石を取り出すには開腹手術を行っていました。しかし、結石ができるたびに手術の傷ができ、患者さんの負担が大きく、痛みも残ります。現在は、尿路の形態異常など、これまでに述べた方法では治療が困難な場合を除き、ほとんど行わなくなりました。内視鏡や破砕装置の進歩に伴い、患者さんにとって可能な限り低侵襲な治療が目標とされています。
【相談者】
Tさん 60歳男性。尿路結石と診断されました。薬を飲んでいましたが、なかなか結石が出ません。痛みも続くため、泌尿器科を受診すると手術を薦められました。どんな方法がありますか?
尿路結石が自然に排石されず、長期間体内にとどまっている場合、侵襲的治療である手術を行います。代表的なものに、体外衝撃波を用いる方法と内視鏡を使う方法があります。非常に小さな腎結石の場合や、患者さんが重症の尿路感染症を起こしているときは、手術を見合わせることもあります。
■手術法は?
・体外衝撃波結石破砕術(ESWL)
機械で衝撃波を発生させ、結石をこなごなにします。広い意味での手術になりますが、体に穴を開けたり、カメラを入れたりといったことはしません。治療用のベッドの上で寝てもらい、機械を体に当てるだけです(写真➊)。
写真➊体外衝撃波結石破砕装置
通常、麻酔はいりませんが、ある程度の痛みを伴うため、鎮痛剤は使用します。衝撃波1発では壊れず、何発か続ける必要があります。1回の治療に1時間ほどかかります。麻酔が不要なので繰り返し治療できますが、じっとしていないと効率よく破砕できません。また、治療対象は、腎や尿管の結石で、ぼうこうや尿道は対象になりません。
・経尿道的結石破砕術(TUL)
おしっこの出口から結石までカメラを入れて、レーザー破砕機などで細かく砕きます。TULでは、結石を直接観察しながら破砕するので、ESWLより確実性が高く、同時に破砕片を鉗子(かんし)で取り出すこともできます。細径軟性尿管鏡(細くて柔らかいカメラ)とレーザー破砕機(写真➋と➌)を使用することで、尿管の結石だけでなく、腎結石の治療も可能になりました。
写真➋細径軟性尿管鏡
写真➌レーザー破砕機
細径軟性尿管鏡とレーザー破砕機の普及に伴い、近年手術件数が増加しています。手術には麻酔が必要です。
・経皮的結石破砕術(PNL)
背中から腎臓に1センチほどの穴を開け、そこから内視鏡を入れて結石をレーザーなどで破砕します。長径2センチを超える腎結石や腎臓に鋳型のようにはまりこんだサンゴ状結石、尿管狭窄(きょうさく)の場合など、ESWLやTULだけでは治療が難しい場合に行います。やはり麻酔が必要で、結石が大きいほど、また手術時間が長くなるほど、出血や尿路感染症などの合併症リスクが高くなる傾向があります。
手術治療の対象となる結石はある程度の大きさがあることが多く、複数回の治療が必要な場合や他の治療法を追加して治療する場合があります。
・開腹手術
以前は尿路結石を取り出すには開腹手術を行っていました。しかし、結石ができるたびに手術の傷ができ、患者さんの負担が大きく、痛みも残ります。現在は、尿路の形態異常など、これまでに述べた方法では治療が困難な場合を除き、ほとんど行わなくなりました。内視鏡や破砕装置の進歩に伴い、患者さんにとって可能な限り低侵襲な治療が目標とされています。
尿路結石症(下)
2019.2.26
水分摂取で再発予防 シュウ酸少ない食品を
【相談者】
Hさん 58歳男性。尿路結石で手術を受けました。結石は完全になくなりましたが、今後はどんなことに気を付ければよいのでしょうか。
尿路結石は完全になくなっても、また何年か後にできる場合があります。カルシウムを含む結石の再発率(治療後5年)は45%と比較的高い数値が出ています。再発を少しでも防ぐため、日常生活で気を付けておくべきことをいくつか挙げます。
■こまめに飲む
水分摂取は再発予防の基本です。1日の尿量が2リットル以上だと結石形成のリスクが低くなると言われています。逆に、1リットル以下だとリスクが高くなります。飲み物なら何でも良いというわけではありません。清涼飲料水やアルコールを過剰に取ると結石ができやすくなるので、水道水やミネラルウオーター、麦茶、ほうじ茶などがお薦めです。水分は、一度に大量に飲むのではなく、何回かに分けてこまめに飲み、脱水にならないようにしましょう。
麦茶やほうじ茶をお薦めするのは、含まれるシュウ酸が少ないからです。尿路結石の成分はシュウ酸カルシウムであることが最も多く、シュウ酸の摂取を控えるようにします。
図1にシュウ酸が多く含まれる食品を示します。ただ全く食べてはいけないわけではありません。シュウ酸は水に溶けるので、ゆでて減らせます。また、カルシウムと一緒に食べると、シュウ酸は腸管の中でカルシウムと結合して便中に排せつされ、体内への吸収を減らせます。カルシウムたっぷりのカツオブシを添えたホウレンソウのおひたしは、再発のリスクを減らすメニューの一つです。
■適度にカルシウム
再発予防として、かつてはカルシウムの摂取を制限していました。しかし、日本人は慢性的にカルシウムが不足しており、尿路結石の患者さんはさらに少ない傾向にあります。前述のように、カルシウムはシュウ酸と結合して便中に排せつされ、シュウ酸の吸収を妨げることができます。カルシウムの摂取には乳製品が手軽ですが、脂肪は尿路結石の再発リスクを高めますので、低脂肪のものがよいでしょう。1日のカルシウム摂取目標量は600~800ミリグラムです。
プリン体とは細胞の核に含まれるDNAの主成分で、プリン環という共通の構造を持つものです。乾燥によって凝縮された干物や内臓など細胞数の多い食品に多く含まれています。プリン体は代謝されて尿酸になるので過剰摂取は尿酸結石の原因となります。プリン体の多い食品と少ない食品(いずれも1食当たり)を図2に示しますので、過剰に摂取しないように気を付け、再発のリスクを下げるようにします。
■生活習慣を改善
適度な運動と水分補給、バランスの取れた規則正しい食生活を心掛けてください。「結石は夜作られる」とも言いますので、夕食から就寝までの間隔を4時間程度空けてください。夕食中心となっている食生活の改善も効果があります。深酒をして脱水状態になる、また高カロリーの夜食を食べてすぐ就寝する、といった習慣はやめるべきです。
塩分や糖分、脂肪の取り過ぎも尿路結石の再発リスクを高めます。これらは高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病の原因でもあり、生活習慣病の予防が尿路結石の再発予防につながると考えられます。
【相談者】
Hさん 58歳男性。尿路結石で手術を受けました。結石は完全になくなりましたが、今後はどんなことに気を付ければよいのでしょうか。
尿路結石は完全になくなっても、また何年か後にできる場合があります。カルシウムを含む結石の再発率(治療後5年)は45%と比較的高い数値が出ています。再発を少しでも防ぐため、日常生活で気を付けておくべきことをいくつか挙げます。
■こまめに飲む
水分摂取は再発予防の基本です。1日の尿量が2リットル以上だと結石形成のリスクが低くなると言われています。逆に、1リットル以下だとリスクが高くなります。飲み物なら何でも良いというわけではありません。清涼飲料水やアルコールを過剰に取ると結石ができやすくなるので、水道水やミネラルウオーター、麦茶、ほうじ茶などがお薦めです。水分は、一度に大量に飲むのではなく、何回かに分けてこまめに飲み、脱水にならないようにしましょう。
麦茶やほうじ茶をお薦めするのは、含まれるシュウ酸が少ないからです。尿路結石の成分はシュウ酸カルシウムであることが最も多く、シュウ酸の摂取を控えるようにします。
図1にシュウ酸が多く含まれる食品を示します。ただ全く食べてはいけないわけではありません。シュウ酸は水に溶けるので、ゆでて減らせます。また、カルシウムと一緒に食べると、シュウ酸は腸管の中でカルシウムと結合して便中に排せつされ、体内への吸収を減らせます。カルシウムたっぷりのカツオブシを添えたホウレンソウのおひたしは、再発のリスクを減らすメニューの一つです。
■適度にカルシウム
再発予防として、かつてはカルシウムの摂取を制限していました。しかし、日本人は慢性的にカルシウムが不足しており、尿路結石の患者さんはさらに少ない傾向にあります。前述のように、カルシウムはシュウ酸と結合して便中に排せつされ、シュウ酸の吸収を妨げることができます。カルシウムの摂取には乳製品が手軽ですが、脂肪は尿路結石の再発リスクを高めますので、低脂肪のものがよいでしょう。1日のカルシウム摂取目標量は600~800ミリグラムです。
プリン体とは細胞の核に含まれるDNAの主成分で、プリン環という共通の構造を持つものです。乾燥によって凝縮された干物や内臓など細胞数の多い食品に多く含まれています。プリン体は代謝されて尿酸になるので過剰摂取は尿酸結石の原因となります。プリン体の多い食品と少ない食品(いずれも1食当たり)を図2に示しますので、過剰に摂取しないように気を付け、再発のリスクを下げるようにします。
■生活習慣を改善
適度な運動と水分補給、バランスの取れた規則正しい食生活を心掛けてください。「結石は夜作られる」とも言いますので、夕食から就寝までの間隔を4時間程度空けてください。夕食中心となっている食生活の改善も効果があります。深酒をして脱水状態になる、また高カロリーの夜食を食べてすぐ就寝する、といった習慣はやめるべきです。
塩分や糖分、脂肪の取り過ぎも尿路結石の再発リスクを高めます。これらは高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病の原因でもあり、生活習慣病の予防が尿路結石の再発予防につながると考えられます。