第3回 野球肘
野球肘(上)
2016.9.13
投球動作で関節に負担 自覚症状なくても発症
【相談者】
Sさん 小学4年の息子を持つ母親。息子は1年生から学校の野球チームに所属して野球を続けています。チーム内でこの4年間、6年生になると肘が痛いと言っている子を何人か見掛けました。息子も最近ちょっと痛みがあると言い出しました。まだ早いかなとも思いましたが、心配になって来院しました。
■発生率は?
球の投球動作により肘を痛めるスポーツ障害の総称を「野球肘」と呼びます。他のスポーツに比べて野球の投球ほど、肩や肘など身体の同じ部分に同じ力がかかり続けるスポーツ動作はありません。
この負担に加えて、成長期の小中学生の関節の近くには、大人の成熟した骨に比べて明らかに弱い成長軟骨があります。小学生の野球選手における野球肘の発生率は20%にもなります。
■原因は?
野球肘には、大きく分けて肘の内側に発生する内側側副靭帯(じんたい)損傷(内側型野球肘)と、肘の外側に発生する離断性骨軟骨炎(外側型野球肘)の2種類があります。種類と特徴を表にまとめました。内側型野球肘のほうが発生頻度が圧倒的に高く、特に野球少年が多くかかります。
図で示したように、投球動作によって肘の内側に繰り返し離れようとする力がかかることによって、成長が終わった高校生以降の大人では骨と骨をつなぐ靭帯自体が損傷され、学童期には靭帯が付着する成長軟骨付近の骨成分が傷みます。
靭帯を縄で例えれば、大人は縄がちぎれていくイメージで、学童期は縄の付着部がはがれていく感じです。学童期の内側型野球肘は重症となることは少なく、多くの場合は安静にしていれば骨や軟骨は固まってきてよくなります。しかし大人では最悪の場合、ダルビッシュ投手のように靭帯を再建する手術が必要になる場合があります。
一方、外側型野球肘は、雨だれがコンクリートをへこますように骨の表面にある関節軟骨を傷つけていきます。これが進行して離断性骨軟骨炎となり、どんどん悪化する場合は学童期であっても手術が必要となる場合もあります。
■早期発見には?
小学生の野球選手で野球肘になる子の割合が20%と高率であるということは、チームに2、3人いてもおかしくないということです。これを念頭に置き、痛みや違和感など何らかの症状があれば、漫然と検査もせずマッサージなどで済ませることなく、早期に医療機関を受診することが発見のポイントになることは言うまでもありません。
野球肘の難しい点は、自覚症状がなかったり、診察上、痛みがなくてもかかっている可能性があるところです。このため最近では野球肘の早期発見のために検診にエコー(超音波検査)を用いることで、自覚症状のない患者さんが多いこの疾患の早期発見に取り組む地域が増えつつあります。他のスポーツ障害以上に、早めの受診が重要となります。
【相談者】
Sさん 小学4年の息子を持つ母親。息子は1年生から学校の野球チームに所属して野球を続けています。チーム内でこの4年間、6年生になると肘が痛いと言っている子を何人か見掛けました。息子も最近ちょっと痛みがあると言い出しました。まだ早いかなとも思いましたが、心配になって来院しました。
■発生率は?
球の投球動作により肘を痛めるスポーツ障害の総称を「野球肘」と呼びます。他のスポーツに比べて野球の投球ほど、肩や肘など身体の同じ部分に同じ力がかかり続けるスポーツ動作はありません。
この負担に加えて、成長期の小中学生の関節の近くには、大人の成熟した骨に比べて明らかに弱い成長軟骨があります。小学生の野球選手における野球肘の発生率は20%にもなります。
■原因は?
野球肘には、大きく分けて肘の内側に発生する内側側副靭帯(じんたい)損傷(内側型野球肘)と、肘の外側に発生する離断性骨軟骨炎(外側型野球肘)の2種類があります。種類と特徴を表にまとめました。内側型野球肘のほうが発生頻度が圧倒的に高く、特に野球少年が多くかかります。
図で示したように、投球動作によって肘の内側に繰り返し離れようとする力がかかることによって、成長が終わった高校生以降の大人では骨と骨をつなぐ靭帯自体が損傷され、学童期には靭帯が付着する成長軟骨付近の骨成分が傷みます。
靭帯を縄で例えれば、大人は縄がちぎれていくイメージで、学童期は縄の付着部がはがれていく感じです。学童期の内側型野球肘は重症となることは少なく、多くの場合は安静にしていれば骨や軟骨は固まってきてよくなります。しかし大人では最悪の場合、ダルビッシュ投手のように靭帯を再建する手術が必要になる場合があります。
一方、外側型野球肘は、雨だれがコンクリートをへこますように骨の表面にある関節軟骨を傷つけていきます。これが進行して離断性骨軟骨炎となり、どんどん悪化する場合は学童期であっても手術が必要となる場合もあります。
■早期発見には?
小学生の野球選手で野球肘になる子の割合が20%と高率であるということは、チームに2、3人いてもおかしくないということです。これを念頭に置き、痛みや違和感など何らかの症状があれば、漫然と検査もせずマッサージなどで済ませることなく、早期に医療機関を受診することが発見のポイントになることは言うまでもありません。
野球肘の難しい点は、自覚症状がなかったり、診察上、痛みがなくてもかかっている可能性があるところです。このため最近では野球肘の早期発見のために検診にエコー(超音波検査)を用いることで、自覚症状のない患者さんが多いこの疾患の早期発見に取り組む地域が増えつつあります。他のスポーツ障害以上に、早めの受診が重要となります。
野球肘(下) ~治療と予防~
2016.9.20
年齢に応じ投球数制限 正しいフォームに
【相談者】
Tさん 小学6年の息子を持つ父。息子は野球チームのエースでしたが、5年生の夏に野球肘になり、シーズン終了まで試合に出られませんでした。肘の痛みは治って、遅れた分を取り返すべく6年生になって投げ込みを続けていたら、また痛みが出てきたと言い出しました。医師に治ったと言われたので、もう大丈夫なはずと思いつつ、心配になって来院しました。
■治療は?
まず負担がかかり続けている肘を安静にして休ませる必要があります。安静に、と言ってもすべてのことをやめる必要はありません。肘に痛みが出る投球動作は禁止となりますが、下から投げることやバッティングなどは、痛みが出なければ続けて構いません。この間に体の柔軟性を上げる、持久走を頑張るなど、スポーツのパフォーマンスを高めるための別のトレーニングを行うことも大事です。
しばらく安静にすることで痛みは落ち着いてきますから、その後は球距離を少しずつ伸ばして、ゆっくりと肘にかかる負荷を上げていきます。通常、全力投球まで2カ月から3カ月かかります。痛みを我慢して投げ続けていた人は、安静期間が長くなることがあります。
■予防は?
投球を続けることで、小さな同じ力が繰り返し肘に加わり、障害が起きます。従って、相談者のようにいったん治ったからといって、野球肘になる前と同じように投げ込みを続けていたら、再発することがあります。
特に学童期は大人より骨や軟骨が弱くて発症率が高いので、再発率も高くなります。当院へ受診された患者さんでも、小学生の間に2回再発、つまり3回痛くなったお子さんがいました。少子化で以前よりも選手が少なくなってきている一方で、大会や試合が多くなってきていることも再発に関係しているように感じます。
■再発は?
再発しないようにするには原因を断ち切ること、すなわち、予防することを考えていかなければいけません。
ポイントは三つ挙げられます(表)。投球数の制限については日本臨床スポーツ医学会の「青少年の野球障害に対する提言」(1995年)において、全力投球数は試合を含めて小学生では1日50球以内、週200球以内、中学生では1日70球以内、週350球以内、高校生では1日100球以内、週500球以内が望ましく、1日2試合の登板は禁止すべき、とされています。
米国の大リーグでは、先発ピッチャーは100球を一つの目安にして交代しています。最近、日本でも投球数を考慮するようになってきたのは米国の影響もあるでしょう。投げ込みという考え方をやめて、一球一球を大切に練習することが大事です。
投球フォームについては、投球時に肘が下がったり、横から投げたりすることが良くないと言われています。再発しやすい学童期には特に正しい投球フォームになるよう注意を払う必要があります(写真(1))。
写真(1):投球]フォームの指導。鏡に向かってタオルを用いて腕の振りなどを確認している=済生会富山病院
体の柔軟性も大切です。肩や肘など上肢の柔軟性ばかりに目が行くことがありますが、投球は体全体を使って行われていることから、体幹や下肢、特に股関節の柔軟性を上げること(写真(2))が、肘など負担を減らすことにつながり、障害発生の予防となります。
写真(2):体幹や下肢の柔軟性を高めることも予防につながる=済生会富山病院
指導者や保護者の方は発症率20%ということを知ったうえで、好きな野球を休むことになってしまう選手を作らないように注意を払っていただきたいと思います。
【相談者】
Tさん 小学6年の息子を持つ父。息子は野球チームのエースでしたが、5年生の夏に野球肘になり、シーズン終了まで試合に出られませんでした。肘の痛みは治って、遅れた分を取り返すべく6年生になって投げ込みを続けていたら、また痛みが出てきたと言い出しました。医師に治ったと言われたので、もう大丈夫なはずと思いつつ、心配になって来院しました。
■治療は?
まず負担がかかり続けている肘を安静にして休ませる必要があります。安静に、と言ってもすべてのことをやめる必要はありません。肘に痛みが出る投球動作は禁止となりますが、下から投げることやバッティングなどは、痛みが出なければ続けて構いません。この間に体の柔軟性を上げる、持久走を頑張るなど、スポーツのパフォーマンスを高めるための別のトレーニングを行うことも大事です。
しばらく安静にすることで痛みは落ち着いてきますから、その後は球距離を少しずつ伸ばして、ゆっくりと肘にかかる負荷を上げていきます。通常、全力投球まで2カ月から3カ月かかります。痛みを我慢して投げ続けていた人は、安静期間が長くなることがあります。
■予防は?
投球を続けることで、小さな同じ力が繰り返し肘に加わり、障害が起きます。従って、相談者のようにいったん治ったからといって、野球肘になる前と同じように投げ込みを続けていたら、再発することがあります。
特に学童期は大人より骨や軟骨が弱くて発症率が高いので、再発率も高くなります。当院へ受診された患者さんでも、小学生の間に2回再発、つまり3回痛くなったお子さんがいました。少子化で以前よりも選手が少なくなってきている一方で、大会や試合が多くなってきていることも再発に関係しているように感じます。
■再発は?
再発しないようにするには原因を断ち切ること、すなわち、予防することを考えていかなければいけません。
ポイントは三つ挙げられます(表)。投球数の制限については日本臨床スポーツ医学会の「青少年の野球障害に対する提言」(1995年)において、全力投球数は試合を含めて小学生では1日50球以内、週200球以内、中学生では1日70球以内、週350球以内、高校生では1日100球以内、週500球以内が望ましく、1日2試合の登板は禁止すべき、とされています。
米国の大リーグでは、先発ピッチャーは100球を一つの目安にして交代しています。最近、日本でも投球数を考慮するようになってきたのは米国の影響もあるでしょう。投げ込みという考え方をやめて、一球一球を大切に練習することが大事です。
投球フォームについては、投球時に肘が下がったり、横から投げたりすることが良くないと言われています。再発しやすい学童期には特に正しい投球フォームになるよう注意を払う必要があります(写真(1))。
写真(1):投球]フォームの指導。鏡に向かってタオルを用いて腕の振りなどを確認している=済生会富山病院
体の柔軟性も大切です。肩や肘など上肢の柔軟性ばかりに目が行くことがありますが、投球は体全体を使って行われていることから、体幹や下肢、特に股関節の柔軟性を上げること(写真(2))が、肘など負担を減らすことにつながり、障害発生の予防となります。
写真(2):体幹や下肢の柔軟性を高めることも予防につながる=済生会富山病院
指導者や保護者の方は発症率20%ということを知ったうえで、好きな野球を休むことになってしまう選手を作らないように注意を払っていただきたいと思います。