ほっとホスピタル 病と健康
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第37回 末梢動脈疾患
第36回 脳卒中予防のための血圧管理
第35回 尿路結石症
第34回 骨粗しょう症
第34回 大腿骨近位部骨折
第33回 スキン‐テア(皮膚裂傷)
第33回 低温熱傷
第32回 そけいヘルニア
第31回 めまいを起こす病気
第30回 お薬との上手なつきあい方
第29回 帯状疱疹
第29回 足白癬・爪白癬
第28回 夏風邪
第28回 高山病
第28回 熱中症
第27回 足の病気
第26回 心不全
第25回 シェーグレン症候群
第24回 認知症
第23回 更年期障害
第22回 くも膜下出血
第21回 ウイルス性肝炎
第20回 心筋梗塞
第20回 狭心症
第19回 糖尿病の注意点
第19回 食後高血糖
第18回 肌のトラブル
第17回 前立腺の病気
第16回 脳梗塞
第15回 睡眠時無呼吸症候群
第14回 ピロリ菌
第13回 腸炎
第12回 スポーツ時の脳振とう
第12回 高齢者の慢性硬膜下血腫
第12回 子どもの頭部外傷
第11回 高血圧
第10回 口腔ケア
第9回 不整脈
第8回 消化器内視鏡検査でわかること
第7回 男性不妊症
第6回 肺炎
第6回 感染性胃腸炎
第6回 インフルエンザ
第5回 糖尿病
第4回 乳がん
第3回 野球肘
第2回 脳卒中にならないために
第1回 失神

第15回 睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群(上)

2017.8.1
強い眠気、生活に影響 心臓病・脳卒中のリスク

【相談者】
 Sさん 50歳男性。家族から、寝ている時にいびきがひどく、たまに呼吸が止まっていることがあると指摘されます。日中に強く眠気を感じます。病院で受診したほうがよいでしょうか?

 眠っている間に呼吸が10秒以上止まったり、呼吸が弱い状態が睡眠1時間中に5回以上あったりする場合を「睡眠時無呼吸症候群」と言います。英語の「Sleep Apnea Syndrome」の頭文字をとって「SAS」と略して呼ばれます。相談者は、その可能性がありますので病院で検査を受けられるとよいでしょう。

■どんな人に多い?
 現在、日本で治療が必要な患者さんは、300万人以上と推計されています。男女比は、女性に対して男性の方が2~3倍多く、年代はいわゆる中年太り、加齢によって気道の筋肉が緩んでくる30~60代に多く見受けられます。女性は、若い頃は女性ホルモンの影響で気道が確保されやすいですが、閉経後には女性ホルモンが減少するため、男性同様に加齢とともに増加します。

 空気の通り道である気道が狭くなって呼吸が止まる「閉塞性無呼吸」と、脳から呼吸の命令が出なくなることで起きる「中枢性無呼吸」の二つに分けて考えられ、ほとんどのケースが閉塞性無呼吸によるものです。

■症状は?
 習慣的ないびきや日中の強い眠気などがSASの代表的な症状です(表1)。隣の人が眠れなくなるような大きな音のいびきをかいたり、寝ている時に呼吸が止まったりする人も多いです。十分に寝たはずでも熟睡した感じがせず、慢性的な疲労感、集中力低下、朝起きた時に頭痛を起こすこともあります。

(上)表1 睡眠時無呼吸症候群の症状や特徴

 自分の日中の眠気を点数化する「エプワース眠気尺度」(表2)を使うと自分の睡眠状態を知ることができます。11点以上の場合は睡眠障害の可能性が高いので、病院で精密検査を受けたほうがよいでしょう。

(上)表2 エプワース眠気尺度

 睡眠中は気道の筋肉の緊張が緩みやすいために、あおむけになると、舌の付け根の部分が喉に落ち込んで気道が圧迫されます。すると苦しくなって目覚めてしまい、そうして睡眠と無呼吸と目覚めを繰り返すことで十分な睡眠がとれないため、日中の生活に影響が出て、ひいては健康状態の悪化につながります。

■問題は?
 SASが影響した交通事故や労災事故はテレビなどの報道でも取り上げられ、本人の問題だけでなく、社会問題にもなっています。SASを発症している人は、そうでない人と比べて2~11倍以上も交通事故を起こす危険性が高く、海外では、SASの治療前と治療後で、労災の発生件数が減少したとの報告もされています。

 無呼吸の回数が増えると、血圧が上がり、心臓病や脳卒中のリスクが高くなります。SASを発症している人は、そうでない人に比べて、高血圧は2倍、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患は2~3倍、脳卒中などの脳血管障害は3~5倍ぐらいかかりやすいと言われています。

 肥満の改善、悪影響を及ぼす飲酒や喫煙の制限、舌で気道を圧迫しないように横向きに寝ることなどの対策が考えられますが、SASの患者さんには症状や重症度に応じた治療が必要になります。そのためには、病院で検査を受けて、適切な治療を行うことが大事です。


睡眠時無呼吸症候群(下)

2017.8.8
マスクで気道を拡張 適正体重 維持して

【相談者】
 Mさん 55歳男性。車を長距離運転する仕事に就いています。職場の健康診断の結果から、睡眠時無呼吸症候群の検査をするように言われました。どのような検査を受けるのでしょうか? 治るのでしょうか?

 居眠り運転した新幹線の運転士や、交通事故を起こしたトラックやバスの運転手が睡眠時無呼吸症候群(SAS)と指摘されたことで、SASの予防や治療に取り組む職場が増えてきたと聞きます。

 SASは生活に悪影響を及ぼします。事故の発生率が上がることはもちろん、心臓病や脳卒中の危険性も高まります。習慣的ないびき、寝ていて呼吸が止まるなどの症状、肥満や小顔といった特徴のある人は、病院で受診して検査を受けてみてください。

■検査は?
 当院では、何らかの症状があって受診された人にまずは、日中の眠気を評価するエプワース眠気尺度などを用いて問診します。

 次は、指先で血中酸素飽和度を調べる「パルスオキシメーター」を2日間寝るときに付けてもらい、検査をします。無呼吸や低呼吸の際には血中の酸素飽和度が下がることから、パルスオキシメーターで酸素飽和度の低下回数や程度を調べて、SASを判断することができます。

(下) SASの診断の流れ

 問診や酸素飽和度の検査結果によっては、1泊入院して、さらに詳しく呼吸状態や睡眠状態も調べる「終夜睡眠ポリグラフィ検査(PSG)」を行うことがあります。

 PSGでは、頭や顔、体の必要な部位にセンサーを付け、睡眠中の脳波や鼻の気流、眼球の動き、筋肉の動き、いびきの音などを測定します。この検査によって、AHIと呼ばれる睡眠1時間当たりの無呼吸低呼吸指数を正確に調べて、SASかどうかを診断します。

■治療は?
 無呼吸の程度によって治療法を選択します。

 AHIが20回以上の場合は、経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP療法)を選択するのが一般的です。寝るときに鼻にマスクを着けて、機械で圧力をかけた空気を鼻から気道に送り込み、気道を広げて睡眠中の無呼吸を防止する治療法です。健康保険が適用されるためには月に1回の受診が必要で、月々の医療費は3割負担の人で約4500円です。

(下) CPAP療法

図:CPAP療法は睡眠時に一定圧の空気を送り、気道を広げて無呼吸を防ぐ

 AHIが20回未満もしくは治療法が合わない場合には、マウスピースを使用したり、外科的手術をしたりすることもあります。

 寝ているときに、マウスピースを装着することで下顎を前の方に出すようにして、気道を確保して正常な呼吸を保つことができるようにします。患者さんのあごや歯並びに合わせることが必要なため、知識のある歯科医で作製します。アデノイド(咽頭扁桃(いんとうへんとう))や扁桃腺が大きくて気道をふさいでいる場合は手術で切除する方法があります。

■注意点は?
 これらの適切な治療を行うことで、生活への悪影響や他の病気の発症を減らすことができますが、生活習慣の改善も大切です。運動や食事で太らないようにし、適正な体重を維持しましょう。節酒や禁煙も心掛けてください。


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