第2回 脳卒中にならないために
脳卒中の予防(上)
2016.8.30
生活習慣見直しを 後遺症で要介護にも
【相談者】
Yさん 50歳男性。最近、職場の同僚が突然めまいと頭痛を訴え、嘔吐(おうと)を繰り返すうちに意識がなくなりました。すぐに救急車で病院に運ばれましたが、脳出血とのことでした。自分の父親は63歳で脳梗塞を患い、今も右手が不自由で、うまくしゃべれません。このような体験があるため、自分も同じ病気になるのではないかと不安です。脳卒中にならないためにはどうすればいいのか教えてください。
■原因は?
脳は全身の臓器の中で、エネルギー代謝が最も活発な臓器です。そのため、常に酸素とブドウ糖の供給を必要としており、大量の血液が脳の血管に流れています。その脳の血管が破れたり、詰まったりして起こる病気の総称が脳卒中です。
脳卒中は二つのタイプに分かれます。一つは血管が詰まるタイプの脳梗塞です。二つ目は血管が破れるタイプで、脳出血とくも膜下出血があります。
■なぜ恐ろしい?
脳卒中は、昭和50年代前半までは死亡原因の第1位でした。その後、治療法の進歩や血圧の管理などにより死亡率は急激に低下し、現在は第4位になっています。しかし、いったん発症すると、生命は助かっても、さまざまな症状や障害が残るケースが多くあります。重度の要介護者の約3割は、脳卒中が原因によるものです。
また、働き盛りの40歳から65歳の要介護者の約5割は、脳卒中が原因です。脳卒中後の職場復帰率は約4割と低く、本人はもちろん、家族、勤務先、そして社会に大きな影響を及ぼします。このような理由から、多くの人が「脳卒中は恐ろしい病気」と感じています。
脳卒中週間の標語に「脳卒中 倒れる前に まず予防」とあります。予防に勝る治療法はありません。脳卒中の原因となる危険因子を見つけ、それを修正することにより、発症や進行を防ぐことが大切です。
■危険因子は?
脳卒中のうち、脳梗塞と脳出血の多くは、生活習慣病です。偏った食生活、運動不足、睡眠不足、ストレス過剰、大量飲酒、喫煙などの不適切な生活習慣が、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、肥満症、心房細動、虚血性心疾患などの生活習慣病を引き起こします。そしてそれらの進行により脳卒中が発症すると考えられています。
脳卒中予防の基本は、個々の危険因子、すなわち生活習慣病を見つけ出し、薬による治療と、自己管理のもとで生活習慣の改善に取り組むことです(図1)。
脳卒中の予防と患者・家族の支援を目的として活動している日本脳卒中協会は、分かりやすい「脳卒中予防十か条」を作成しました(表1)。注意喚起から生活習慣の基本、救急対応の必要性をまとめています。
以前、脳卒中は「死に至る病」と言われてきましたが、現在は「重い後遺症のために介護が必要になる病気」に姿を変えました。いつまでも自分らしい生活を送ることができるよう、今の生活習慣をもう一度見直しましょう。
【相談者】
Yさん 50歳男性。最近、職場の同僚が突然めまいと頭痛を訴え、嘔吐(おうと)を繰り返すうちに意識がなくなりました。すぐに救急車で病院に運ばれましたが、脳出血とのことでした。自分の父親は63歳で脳梗塞を患い、今も右手が不自由で、うまくしゃべれません。このような体験があるため、自分も同じ病気になるのではないかと不安です。脳卒中にならないためにはどうすればいいのか教えてください。
■原因は?
脳は全身の臓器の中で、エネルギー代謝が最も活発な臓器です。そのため、常に酸素とブドウ糖の供給を必要としており、大量の血液が脳の血管に流れています。その脳の血管が破れたり、詰まったりして起こる病気の総称が脳卒中です。
脳卒中は二つのタイプに分かれます。一つは血管が詰まるタイプの脳梗塞です。二つ目は血管が破れるタイプで、脳出血とくも膜下出血があります。
■なぜ恐ろしい?
脳卒中は、昭和50年代前半までは死亡原因の第1位でした。その後、治療法の進歩や血圧の管理などにより死亡率は急激に低下し、現在は第4位になっています。しかし、いったん発症すると、生命は助かっても、さまざまな症状や障害が残るケースが多くあります。重度の要介護者の約3割は、脳卒中が原因によるものです。
また、働き盛りの40歳から65歳の要介護者の約5割は、脳卒中が原因です。脳卒中後の職場復帰率は約4割と低く、本人はもちろん、家族、勤務先、そして社会に大きな影響を及ぼします。このような理由から、多くの人が「脳卒中は恐ろしい病気」と感じています。
脳卒中週間の標語に「脳卒中 倒れる前に まず予防」とあります。予防に勝る治療法はありません。脳卒中の原因となる危険因子を見つけ、それを修正することにより、発症や進行を防ぐことが大切です。
■危険因子は?
脳卒中のうち、脳梗塞と脳出血の多くは、生活習慣病です。偏った食生活、運動不足、睡眠不足、ストレス過剰、大量飲酒、喫煙などの不適切な生活習慣が、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、肥満症、心房細動、虚血性心疾患などの生活習慣病を引き起こします。そしてそれらの進行により脳卒中が発症すると考えられています。
脳卒中予防の基本は、個々の危険因子、すなわち生活習慣病を見つけ出し、薬による治療と、自己管理のもとで生活習慣の改善に取り組むことです(図1)。
脳卒中の予防と患者・家族の支援を目的として活動している日本脳卒中協会は、分かりやすい「脳卒中予防十か条」を作成しました(表1)。注意喚起から生活習慣の基本、救急対応の必要性をまとめています。
以前、脳卒中は「死に至る病」と言われてきましたが、現在は「重い後遺症のために介護が必要になる病気」に姿を変えました。いつまでも自分らしい生活を送ることができるよう、今の生活習慣をもう一度見直しましょう。
脳卒中の予防(下)
2016.9.6
脳ドックで健康管理 40歳頃から受診を
【相談者】
Nさん 45歳女性。母親が52歳でくも膜下出血になり手術を受けました。幸いに後遺症もなく、元の生活に戻ることができました。当時、主治医から「家族に同じ病気が起こりやすい」と言われたことがあります。母親が倒れた年齢に近づき、そろそろ詳しい検査を受けた方が良いのかと思っています。どうすればいいか教えてください。
高血圧症、糖尿病、脂質異常症など脳卒中を引き起こす要因をもっている人、喫煙年数が長い人、アルコールの摂取量の多い人、あるいは家族や近親者に脳卒中になった人がいる場合には、健康管理の一環として脳ドックの受診を勧めます。受診する年齢は、がん検診と異なり厳密な意味での推奨年齢はありませんが、生活習慣病のツケがでてくる40歳頃からが目安です。
■検査内容は?
脳ドックは文字通り「脳」の専門ドックです。「脳卒中の危険因子」と「脳」そして、「脳の血管」をチェックします。施設によっては、認知機能検査を行なうこともあります。「脳卒中の危険因子」は問診および診察、血液・尿・生化学検査、心電図、頸動脈エコー検査などで調べ、「脳」と「脳の血管」は高性能MRI(磁気共鳴画像装置)を用いてチェックします。いずれの検査も身体に負担をかけるものではありません。
■何が分かる?
脳ドック受診の最大のメリットは、症状が出なかったため患っていても気付かなかった脳の血管病変、すなわち無症候性脳血管病変を発見できることです。これは、脳卒中発症の大きな危険因子です。脳ドックで行う生活習慣のチェックと生活習慣病の検査、そして無症候性脳血管病変の確認は、脳卒中発症予防の最強ツールと考えられます。
「表」に、脳ドックで見つかる主な無症候性の脳血管病変を提示し、その病変の進行に伴って発症する脳卒中のタイプと、対策を示しました。
検査結果で異常が検出された時には、かかりつけ医や専門医に相談することが必要です。異常が指摘されなかった場合でも、3年から5年ごとに検査しましょう。
発症原因が不明の脳卒中があることや画像検査の精度にも限界があること、結果はあくまでも検査を受けた時点での状態を示すものであること-などの理由から、検査結果が将来の健康を100パーセント約束するものではありません。しかし、危険因子を多方面から調べる脳ドックは、脳卒中発症を予防するための多くの情報を提供してくれます。
相談者の母親が発症されたくも膜下出血の原因として最も多いのは脳動脈瘤(りゅう)の破裂によるもので、80%以上を占め、次に多いのが脳動静脈奇形で、5~10%になります。いずれも発症する前に脳ドックで発見することができます。
■費用・所要時間は?
脳ドックは発病していない状態での検査のため、全額自己負担になります。ただし、健康保険組合や地方自治体などによっては、費用の一部を助成するところもあります。なお、脳ドックによって発見された病気の治療については健康保険が適用されます。
所要時間は検査内容にもよりますが、1時間半から3時間程度です。これからの健康寿命を延ばすために、少し立ち止まって受診されることをお勧めします。
写真:MRIでは脳や脳の血管の状態を調べる=済生会富山病院
【相談者】
Nさん 45歳女性。母親が52歳でくも膜下出血になり手術を受けました。幸いに後遺症もなく、元の生活に戻ることができました。当時、主治医から「家族に同じ病気が起こりやすい」と言われたことがあります。母親が倒れた年齢に近づき、そろそろ詳しい検査を受けた方が良いのかと思っています。どうすればいいか教えてください。
高血圧症、糖尿病、脂質異常症など脳卒中を引き起こす要因をもっている人、喫煙年数が長い人、アルコールの摂取量の多い人、あるいは家族や近親者に脳卒中になった人がいる場合には、健康管理の一環として脳ドックの受診を勧めます。受診する年齢は、がん検診と異なり厳密な意味での推奨年齢はありませんが、生活習慣病のツケがでてくる40歳頃からが目安です。
■検査内容は?
脳ドックは文字通り「脳」の専門ドックです。「脳卒中の危険因子」と「脳」そして、「脳の血管」をチェックします。施設によっては、認知機能検査を行なうこともあります。「脳卒中の危険因子」は問診および診察、血液・尿・生化学検査、心電図、頸動脈エコー検査などで調べ、「脳」と「脳の血管」は高性能MRI(磁気共鳴画像装置)を用いてチェックします。いずれの検査も身体に負担をかけるものではありません。
■何が分かる?
脳ドック受診の最大のメリットは、症状が出なかったため患っていても気付かなかった脳の血管病変、すなわち無症候性脳血管病変を発見できることです。これは、脳卒中発症の大きな危険因子です。脳ドックで行う生活習慣のチェックと生活習慣病の検査、そして無症候性脳血管病変の確認は、脳卒中発症予防の最強ツールと考えられます。
「表」に、脳ドックで見つかる主な無症候性の脳血管病変を提示し、その病変の進行に伴って発症する脳卒中のタイプと、対策を示しました。
検査結果で異常が検出された時には、かかりつけ医や専門医に相談することが必要です。異常が指摘されなかった場合でも、3年から5年ごとに検査しましょう。
発症原因が不明の脳卒中があることや画像検査の精度にも限界があること、結果はあくまでも検査を受けた時点での状態を示すものであること-などの理由から、検査結果が将来の健康を100パーセント約束するものではありません。しかし、危険因子を多方面から調べる脳ドックは、脳卒中発症を予防するための多くの情報を提供してくれます。
相談者の母親が発症されたくも膜下出血の原因として最も多いのは脳動脈瘤(りゅう)の破裂によるもので、80%以上を占め、次に多いのが脳動静脈奇形で、5~10%になります。いずれも発症する前に脳ドックで発見することができます。
■費用・所要時間は?
脳ドックは発病していない状態での検査のため、全額自己負担になります。ただし、健康保険組合や地方自治体などによっては、費用の一部を助成するところもあります。なお、脳ドックによって発見された病気の治療については健康保険が適用されます。
所要時間は検査内容にもよりますが、1時間半から3時間程度です。これからの健康寿命を延ばすために、少し立ち止まって受診されることをお勧めします。
写真:MRIでは脳や脳の血管の状態を調べる=済生会富山病院