ほっとホスピタル 病と健康
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第37回 末梢動脈疾患
第36回 脳卒中予防のための血圧管理
第35回 尿路結石症
第34回 骨粗しょう症
第34回 大腿骨近位部骨折
第33回 スキン‐テア(皮膚裂傷)
第33回 低温熱傷
第32回 そけいヘルニア
第31回 めまいを起こす病気
第30回 お薬との上手なつきあい方
第29回 帯状疱疹
第29回 足白癬・爪白癬
第28回 夏風邪
第28回 高山病
第28回 熱中症
第27回 足の病気
第26回 心不全
第25回 シェーグレン症候群
第24回 認知症
第23回 更年期障害
第22回 くも膜下出血
第21回 ウイルス性肝炎
第20回 心筋梗塞
第20回 狭心症
第19回 糖尿病の注意点
第19回 食後高血糖
第18回 肌のトラブル
第17回 前立腺の病気
第16回 脳梗塞
第15回 睡眠時無呼吸症候群
第14回 ピロリ菌
第13回 腸炎
第12回 スポーツ時の脳振とう
第12回 高齢者の慢性硬膜下血腫
第12回 子どもの頭部外傷
第11回 高血圧
第10回 口腔ケア
第9回 不整脈
第8回 消化器内視鏡検査でわかること
第7回 男性不妊症
第6回 肺炎
第6回 感染性胃腸炎
第6回 インフルエンザ
第5回 糖尿病
第4回 乳がん
第3回 野球肘
第2回 脳卒中にならないために
第1回 失神

第31回 めまいを起こす病気

良性発作性頭位めまい症(上)

2018.10.16
50~70代女性に多く 加齢、運動不足が影響

【相談者】
 Aさん 68歳女性。起床時にぐるぐると景色が回るようなめまいと吐き気があります。しばらくすると治まりますが、頭を動かすと再びめまいがします。脳神経外科の診察では、耳からのめまいではないかと耳鼻咽喉科を勧められました。耳の聞こえは悪くないのですが、受診すべきですか。

 耳は音を聞くほかに、頭と体の位置や動きが一方に偏ることがないように平衡感覚(バランス)を保つ働きがあります。この平衡感覚が乱れるとめまいが起こります。

 耳の構造は、外側から順に外耳、中耳(鼓膜がある所)、内耳(頭の骨に埋まっている所)に分かれます(図1)。

(上)図1 耳の構造

■発症の仕組みは?
 内耳は、音を感知する蝸牛(かぎゅう)と体の平衡感覚を感知する前庭(ぜんてい)から成り立っており、前庭はさらに①頭と体の傾きを感知する耳石器(じせきき)②「右を向く」「左を向く」など頭と体の回る感覚を感知する三半規管で構成されています。耳石器の中には炭酸カルシウムでできている耳石と呼ばれる小さな石がたくさんあり、頭や体の動きに伴って耳石が動くことで傾きを感知します。三半規管は三つの半円形をしたチューブ状の形をしており、その中を満たすリンパ液の流れで回る感覚を感知します。

 前庭は、眼を動かす神経と自律神経につながっているため、前庭の調子が悪くなると、眼が無意識に動く眼振(がんしん)と呼ばれる異常な眼の揺れが発生し、静止しているにもかかわらず周囲が回って見える回転性めまいを自覚します。また自律神経の調子も悪くなり、吐き気やおう吐が起こります。

■病気の疑いは?
 起床時や寝返りを打つなど、頭を動かした時に回転性のめまいが起こる内耳の病気に「良性発作性頭位めまい症」があります。しばらく同じ姿勢でじっとしていると1分ほどで治まりますが、再び頭を動かすとめまいがします。吐き気やおう吐を伴う場合もありますが、同時に耳鳴りや難聴が起こることはありません。

 50~70代の女性に多く、閉経後の女性ホルモン低下によるカルシウムの代謝障害が、耳石にも影響するからではないかと考えられています。めまい患者全体の30~40%を占める最も多い病気です。Aさんの場合、病状から内耳の障害による良性発作性頭位めまい症が疑われたため、耳鼻咽喉科の受診を勧められたと考えられます。

■原因は?
 耳石器にあるはずの耳石が剥がれ落ち、三半規管の中に入り込んでしまうことによって起きると考えられます。三半規管の中に入り込んだ耳石が頭を動かすたびにころころと動き回るため、余計なリンパ液の流れが発生し、めまいが起こります(図2)。

(上)図2 良性発作性頭位めまい症発症メカニズム

 耳石は通常、自然に溶けて吸収されますが、運動不足で頭を動かさないと耳石が1カ所に集まり、大きな塊になって溶けにくくなり吸収されません。加齢に伴い、耳石はもろく剥がれ落ちやすくなるため、高齢者は発症しやすく、高齢化と運動不足によって良性発作性頭位めまい症の患者は増えています。

 横になって長時間テレビを見たり、同じ側の耳を毎日下にして眠る習慣も、耳石がいつも同じ方向に引っ張られるため耳石が剥がれやすくなります。また、糖尿病の持病を持つ人も耳石が剥がれやすく、めまいが起こりやすくなります。


良性発作性頭位めまい症(下)

2018.10.23
安静より運動が有効 自宅でリハビリ体操

【相談者】
 Aさん 68歳女性。起床時にぐるぐると回転するめまいと吐き気があります。じっとしているとめまいは治まりますが、頭を動かすとまためまいがします。脳神経外科の診察で、耳からのめまいではないかと耳鼻咽喉科を薦められました。どのような検査をするのでしょうか。また、治療方法や日常生活の注意点なども教えてください。

 「良性発作性頭位めまい症」はめまい患者全体の30~40%を占め、めまいで最も多い病気です。

■診断は?
 「良性発作性頭位めまい症」の検査は、眼振(がんしん)を観察する特殊な眼鏡(フレンツェル眼鏡)を装着しながら(写真1)、頭の向きと姿勢を変えることでめまいが起こるかどうかと眼振の性状を調べます。

写真1
写真1:眼振を観察するフレンツェル眼鏡(済生会富山病院 提供)

 頭の向きや姿勢を変えたときにめまいが起こり、独特な眼振が見られた場合、良性発作性頭位めまい症と診断します。めまいを起こす他の病気かどうかは症状、眼振の性状、CT検査などによって判別します。

■治療は?
 意外かもしれませんが、あえてめまいが起こる頭の向きや姿勢を繰り返すことで、症状は次第に軽くなってきます。めまいがするからといって安静にしていると、かえって良くありません。積極的に頭や体を動かした方が早く治ります。この時、めまいや吐き気はありますが、心配いりません。これは頭や体を動かすことで耳石が正しい位置に戻ったり、耳石が砕け散って小さくなり、吸収されやすくなるからです。

 適度な運動で、通常2週間から1カ月以内に治ります。めまいと吐き気があるときは安静にしなければならない病気もありますが、良性発作性頭位めまい症では頭や体を積極的に動かすことが治療なので、耳鼻咽喉科医によるきちんとした診察を受けることが大事です。

 頭や体を動かしてめまいを治す治療方法を運動療法と呼びます。この運動療法には、患者が自宅でできるめまいリハビリ体操と、眼振を観察しながら医師と協同で耳石を元の位置に戻す運動療法(浮遊耳石置換法)があります(写真2)。

写真2
写真2:医師と協同で行う運動療法(済生会富山病院 提供)

 めまいリハビリ体操でよく行われるのは寝返り運動です。寝ながら頭や体を左右に動かすことで耳石がサラサラになり、吸収されやすくなります。医師と協同で行う運動療法は、三半規管の形に沿って頭を動かし、耳石を正しい場所に戻します。

 めまいや吐き気を抑える薬も処方します。運動療法を希望しない人は、薬を飲んで症状が軽くなったら体を動かしましょう。いずれの治療法がよいかは医師と相談してください。

 良性発作性頭位目まい症の患者の約10%は目まいが長引きます。特にめまいが起こる頭の向きや姿勢を避けるようにして生活している人が長引きます。

■予防は?
 良性発作性頭位めまい症を予防するには、耳石を三半規管にためないことです。日常生活では、次のようなことに注意してください。

(1)ラジオ体操のような軽い運動を生活に取り入れる。
(2)横になって長時間テレビを見ないようにし、毎日同じ姿勢で眠らない。
(3)暴飲暴食を避け、適正体重を保つ。


メニエール病

2018.10.30
悪化と回復繰り返す 過労・ストレスが関係

【相談者】
 Oさん 61歳女性。3カ月前から疲れた時、急に左耳にキーンという耳鳴りがして、ぐるぐる回るめまいを繰り返しています。かかりつけ医にはメニエール病ではないかと言われました。メニエール病とはどんな病気ですか。

 耳の中で最も内側にある部分を内耳(ないじ)といいます。内耳は蝸牛(かぎゅう)、前庭(ぜんてい)、三半規管から構成され、内耳の内部は外リンパ腔・内リンパ腔と呼ばれる空洞があり、内リンパ腔は内リンパ液、外リンパ腔は外リンパ液で程よい量に満たされています。ところが何らかの原因で内リンパ液の量が増え内耳がむくむ(内リンパ水腫)と内耳の働きが悪くなり、めまい、難聴、耳鳴り、耳の閉塞感が起こります(図1)。これがメニエール病です。

メニエール図1

 原因は不明ですが、過労やストレスが関係していると考えられています。めまいの代名詞のような病気ですが、患者数はめまい患者全体の7~10%程度で特に多い病気ではありません。しかし、約30年前に比べて患者数は増えており、最近は60歳以上の女性が多くなっています。高齢での就労や家族の介護を行う高齢者の増加、女性の社会的地位の変化が原因と考えられます。また性格も関係しており、きちょうめんで細やかな人、自分を抑えて行動する人がかかりやすい傾向にあります。

■症状は?
 メニエール病は、めまいとほぼ同時に片耳の耳鳴りや難聴、耳の閉塞感が出現し、悪化と回復を繰り返すのが特徴です。めまいが起こっても耳鳴りや難聴に変化のない人、めまいだけを繰り返す人、めまいが一度切りだったり、数十秒程度しか続かなかったりする人はメニエール病ではありません。

■検査は?
 めまいがある時は眼振(がんしん)という眼球の異常な揺れがみられるので、眼振の有無や性状を調べる検査をします。難聴の有無や程度を調べるため聴力検査も行います。聴力検査では発症初期には低い音の聴力低下が見られ、徐々に高い音へ広がっていく場合があります。まためまいや難聴を起こす他の病気がないかをCT検査やMRI検査で調べます。

■治療は?
 治療は、生活習慣の改善、薬物治療、手術治療から構成されます。生活習慣の改善ポイントを表1にまとめました。

メニエール表1

 薬物治療は、めまいが激しい時と軽い時に大別され、激しい時はめまいを抑える薬(抗めまい薬)や吐き気止めを用います。めまいが激しくこれらの薬が飲めない場合は、点滴を行うこともあり、内科や耳鼻咽喉科で対応します。めまいが軽い場合の基本は、内耳のむくみを軽くするためにメニエール病用利尿薬を用います。また、内耳の循環改善薬、不安感からくるめまいの悪化を解消するため抗不安薬を投与する場合もあります。難聴、耳鳴り、耳の閉塞感に対してはステロイド薬や神経を修復するビタミン薬を投与します。

 患者の約90%は、生活習慣の改善や薬によって通常の日常生活を送ることができます。残りの約10%は激しいめまいが頻発するため、過剰な内リンパ液を排出する手術などが必要になる場合があります。激しいめまいの後は、数日間はふらつき、体の調子がすっきりしませんが、安静にし過ぎると回復は遅くなるので、少しでも体を動かして早く日常生活が送れるよう慣らすことが大切です。

 メニエール病の発作を繰り返す人は、めまいの前兆が分かるようになります。図2のような時はめまい発作の前兆の可能性があります。この前兆を的確に捉えて、表2の事柄を守って予防をしましょう。

メニエール図2

メニエール表2

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