第37回 末梢動脈疾患
末梢動脈疾患(上)
2019.3.19
血流低下し足に痛み 重症なら壊死も
【相談者】
Sさん 50歳男性。最近、散歩をしていて長い距離を歩けなくなりました。200メートルほど歩くと足が重くなり、動けなくなります。その場でしばらく休んでいると、症状が治まりますが、また200メートルほど歩くと動けなくなります。歳のせいと思っていましたが、心配になって来院しました。
■どんな病気?
末梢(まっしょう)動脈疾患とは、手や足の動脈(末梢動脈)が狭くなったり、詰まったりして手足に十分な血液が流れなくなることで発症する病気です。以前は「閉塞(へいそく)性動脈硬化症(ASO)」と呼ばれていましたが、最近では、「末梢動脈疾患(PAD)」という呼び方が一般的となっています。PADの多くは下肢で発症し、治療せずに放っておくと歩行困難になり、重度になると下肢切断に至る場合もあります。
■症状は?
症状は一般的に4段階に分かれます(表)。初期(第1段階)の症状は、「足の痛み」はなく、「足の冷たさ(=下肢冷感)」です。女性では冷え性の人も多いと思いますが、下肢冷感の全てがPADによるものではありません。
第2段階の症状は、「一定の距離を歩くと、足に痛みやだるさ、重さが表れ、休むと治る」というものです。この痛みのことを間欠性跛行(かんけつせいはこう)と言います。間欠性跛行の痛みは、主にふくらはぎに出現しますが、病変の部位によって臀部(でんぶ)から大腿部(だいたいぶ)にかけて痛みが出ることがあります。
さらに病気が進み、第3段階になると、「何もしなくても足が痛い安静時疼痛(とうつう)」という症状に変わります。この時に痛むのは、ふくらはぎよりも足の指先などの先端部が多くなります。
最も重症の第4段階では、血液の流れが非常に悪くなり、傷ができる「潰瘍・壊死(えし)」が出現します。
これは、神経が侵され痛みを感じにくくなった糖尿病の患者さんや、動脈硬化が重症化した血液透析の患者さんに多く見られます。
■検査は?
この病気の検査(ABI検査)は比較的簡単です。両手両足の血圧を測定して、足と手の数値を比べます。通常は手(腕)で血圧を測りますが、この検査では両手両足に血圧計を巻いて測ります。足の血圧は手(腕)の血圧よりも1.0-1.2倍と少し高く、この比を足関節上腕血圧比(ABI)と呼びます(図)。
ABIが0.9以下(あるいは1.4以上)であれば、心臓から出た血管の途中に狭窄(きょうさく)があり、足の血流が悪いと考えます。ABIが低下している人は、超音波検査、造影CT、MRIといった画像検査により、血管のどの部位に狭窄があるのか調べることができます。同じ動脈硬化が原因の血管病である脳梗塞や心筋梗塞、狭心症と比べると、手足の血圧を測るだけでPADがあるかどうか分かるため非常に低侵襲で簡便です。気になる症状がある人は医療機関に相談してみてください。
【相談者】
Sさん 50歳男性。最近、散歩をしていて長い距離を歩けなくなりました。200メートルほど歩くと足が重くなり、動けなくなります。その場でしばらく休んでいると、症状が治まりますが、また200メートルほど歩くと動けなくなります。歳のせいと思っていましたが、心配になって来院しました。
■どんな病気?
末梢(まっしょう)動脈疾患とは、手や足の動脈(末梢動脈)が狭くなったり、詰まったりして手足に十分な血液が流れなくなることで発症する病気です。以前は「閉塞(へいそく)性動脈硬化症(ASO)」と呼ばれていましたが、最近では、「末梢動脈疾患(PAD)」という呼び方が一般的となっています。PADの多くは下肢で発症し、治療せずに放っておくと歩行困難になり、重度になると下肢切断に至る場合もあります。
■症状は?
症状は一般的に4段階に分かれます(表)。初期(第1段階)の症状は、「足の痛み」はなく、「足の冷たさ(=下肢冷感)」です。女性では冷え性の人も多いと思いますが、下肢冷感の全てがPADによるものではありません。
第2段階の症状は、「一定の距離を歩くと、足に痛みやだるさ、重さが表れ、休むと治る」というものです。この痛みのことを間欠性跛行(かんけつせいはこう)と言います。間欠性跛行の痛みは、主にふくらはぎに出現しますが、病変の部位によって臀部(でんぶ)から大腿部(だいたいぶ)にかけて痛みが出ることがあります。
さらに病気が進み、第3段階になると、「何もしなくても足が痛い安静時疼痛(とうつう)」という症状に変わります。この時に痛むのは、ふくらはぎよりも足の指先などの先端部が多くなります。
最も重症の第4段階では、血液の流れが非常に悪くなり、傷ができる「潰瘍・壊死(えし)」が出現します。
これは、神経が侵され痛みを感じにくくなった糖尿病の患者さんや、動脈硬化が重症化した血液透析の患者さんに多く見られます。
■検査は?
この病気の検査(ABI検査)は比較的簡単です。両手両足の血圧を測定して、足と手の数値を比べます。通常は手(腕)で血圧を測りますが、この検査では両手両足に血圧計を巻いて測ります。足の血圧は手(腕)の血圧よりも1.0-1.2倍と少し高く、この比を足関節上腕血圧比(ABI)と呼びます(図)。
ABIが0.9以下(あるいは1.4以上)であれば、心臓から出た血管の途中に狭窄(きょうさく)があり、足の血流が悪いと考えます。ABIが低下している人は、超音波検査、造影CT、MRIといった画像検査により、血管のどの部位に狭窄があるのか調べることができます。同じ動脈硬化が原因の血管病である脳梗塞や心筋梗塞、狭心症と比べると、手足の血圧を測るだけでPADがあるかどうか分かるため非常に低侵襲で簡便です。気になる症状がある人は医療機関に相談してみてください。
末梢動脈疾患(下)
2019.3.26
足の指先・爪 毎日観察 フットケアに注目
【相談者】
Kさん 70歳男性。糖尿病を患い、20年前からかかりつけ医に通院中です。5年前から足が弱くなり、つえで歩行できる程度でした。ある日靴下が汚れていたので、靴擦れだと思ったら、足の指先がうんでいることに気付きました。心配になり、かかりつけ医の紹介で来院しました。
末梢(まっしょう)動脈疾患(PAD)または閉塞(へいそく)性動脈硬化症(ASO)とは、動脈硬化によって全身の血管(動脈)の内腔(ないくう)が狭くなったり、詰まったりすることで血液の流れが悪くなる病気です。
まずは、動脈硬化の原因になりやすい病気(高血圧、脂質異常症、糖尿病)の治療が最も重要です。その上で、薬物療法や運動療法、手術が必要に応じて行われます。歩くと足の痛みが出る、何もしなくても痛む、足に潰瘍ができているといった場合は、手術の対象になります(図)。
■治療は?
●薬物療法
代表的な薬剤として、動脈の詰まりの原因となる血小板の働きを防ぐ抗血小板薬、血液を固まりにくくする抗凝固薬、血栓を作りにくくして血管を拡張する末梢血管拡張薬があります。
●運動療法
ウオーキングなど適度な有酸素運動を行うことで毛細血管の発達を促し、足への血流を増加させ、症状の緩和につながります。間欠性跛行(かんけつせいはこう)の改善に有用な方法です。
●手術
手術にはカテーテルという細い管を血管に挿入し、狭窄(きょうさく)や閉塞している部位を風船で膨らませたり、ステントという金属の筒を用いて血管を拡張したりする血管内治療(カテーテル治療)が発達しており、この治療を取り入れることが増えています。他に人工血管や静脈を外科的につなぐバイパス手術もあります。
Kさんの足の指の傷は、PAD/ASOの症状の中で一番重篤な潰瘍・壊死であり、ABI検査では右0・2、左0・4と足の血流が明らかに低下していました。Kさんはカテーテル治療を希望されましたが、閉塞部位が長く、また膝下の病変だったためカテーテル治療では十分に血流を改善することができず、バイパス手術も困難でした。最終的に下肢部分切断術の方針となりました。血管病変が強く進行してしまうと、Kさんのように足を切断するしかない手遅れの状態もあります。
■予後は?
PAD/ASOは心筋梗塞や脳梗塞、がんのように怖い病気ではないと考えている方がほとんどではないでしょうか。実は足の血管の病気を放置すると、がんよりも死亡率が高いという報告があります(グラフ)。
特に糖尿病を合併している患者では、30秒に1人が足を切断されているという報告もあります。5年後も安定しているPAD/ASO患者は7割しかおらず、1割は下肢切断、2割は病状の進行を認めます。また、足の病変だけでなく、2~3割の患者で心筋梗塞や脳卒中を合併する予後の悪い怖い病気なのです。
■予防は?
他の血管病と同じく、1番大事なのは動脈硬化の改善です。薬物療法はもちろん、食事やウオーキングなど適度な運動により、病気の進行を遅らせることができますし、禁煙もとても有効です。
また近年、足のセルフケア、フットケアが注目されています。糖尿病の合併症のひとつである足潰瘍や足壊疽(えそ)などの糖尿病足病変を予防するため、普段から足に傷を作らないよう毎日観察することが大切です。具体的には、足浴などで足を清潔にすることで感染症を防ぎ、血流の改善を促します。また爪や足の指先のチェックをし、爪を切る際は深爪にならないよう注意しましょう。毎日足を観察することで、傷が進行しないうちに、医療機関を受診できます。フットケア外来を開設している医療機関もありますので、まずはかかりつけ医に相談してみてください。
【相談者】
Kさん 70歳男性。糖尿病を患い、20年前からかかりつけ医に通院中です。5年前から足が弱くなり、つえで歩行できる程度でした。ある日靴下が汚れていたので、靴擦れだと思ったら、足の指先がうんでいることに気付きました。心配になり、かかりつけ医の紹介で来院しました。
末梢(まっしょう)動脈疾患(PAD)または閉塞(へいそく)性動脈硬化症(ASO)とは、動脈硬化によって全身の血管(動脈)の内腔(ないくう)が狭くなったり、詰まったりすることで血液の流れが悪くなる病気です。
まずは、動脈硬化の原因になりやすい病気(高血圧、脂質異常症、糖尿病)の治療が最も重要です。その上で、薬物療法や運動療法、手術が必要に応じて行われます。歩くと足の痛みが出る、何もしなくても痛む、足に潰瘍ができているといった場合は、手術の対象になります(図)。
■治療は?
●薬物療法
代表的な薬剤として、動脈の詰まりの原因となる血小板の働きを防ぐ抗血小板薬、血液を固まりにくくする抗凝固薬、血栓を作りにくくして血管を拡張する末梢血管拡張薬があります。
●運動療法
ウオーキングなど適度な有酸素運動を行うことで毛細血管の発達を促し、足への血流を増加させ、症状の緩和につながります。間欠性跛行(かんけつせいはこう)の改善に有用な方法です。
●手術
手術にはカテーテルという細い管を血管に挿入し、狭窄(きょうさく)や閉塞している部位を風船で膨らませたり、ステントという金属の筒を用いて血管を拡張したりする血管内治療(カテーテル治療)が発達しており、この治療を取り入れることが増えています。他に人工血管や静脈を外科的につなぐバイパス手術もあります。
Kさんの足の指の傷は、PAD/ASOの症状の中で一番重篤な潰瘍・壊死であり、ABI検査では右0・2、左0・4と足の血流が明らかに低下していました。Kさんはカテーテル治療を希望されましたが、閉塞部位が長く、また膝下の病変だったためカテーテル治療では十分に血流を改善することができず、バイパス手術も困難でした。最終的に下肢部分切断術の方針となりました。血管病変が強く進行してしまうと、Kさんのように足を切断するしかない手遅れの状態もあります。
■予後は?
PAD/ASOは心筋梗塞や脳梗塞、がんのように怖い病気ではないと考えている方がほとんどではないでしょうか。実は足の血管の病気を放置すると、がんよりも死亡率が高いという報告があります(グラフ)。
特に糖尿病を合併している患者では、30秒に1人が足を切断されているという報告もあります。5年後も安定しているPAD/ASO患者は7割しかおらず、1割は下肢切断、2割は病状の進行を認めます。また、足の病変だけでなく、2~3割の患者で心筋梗塞や脳卒中を合併する予後の悪い怖い病気なのです。
■予防は?
他の血管病と同じく、1番大事なのは動脈硬化の改善です。薬物療法はもちろん、食事やウオーキングなど適度な運動により、病気の進行を遅らせることができますし、禁煙もとても有効です。
また近年、足のセルフケア、フットケアが注目されています。糖尿病の合併症のひとつである足潰瘍や足壊疽(えそ)などの糖尿病足病変を予防するため、普段から足に傷を作らないよう毎日観察することが大切です。具体的には、足浴などで足を清潔にすることで感染症を防ぎ、血流の改善を促します。また爪や足の指先のチェックをし、爪を切る際は深爪にならないよう注意しましょう。毎日足を観察することで、傷が進行しないうちに、医療機関を受診できます。フットケア外来を開設している医療機関もありますので、まずはかかりつけ医に相談してみてください。