ほっとホスピタル 病と健康
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第37回 末梢動脈疾患
第36回 脳卒中予防のための血圧管理
第35回 尿路結石症
第34回 骨粗しょう症
第34回 大腿骨近位部骨折
第33回 スキン‐テア(皮膚裂傷)
第33回 低温熱傷
第32回 そけいヘルニア
第31回 めまいを起こす病気
第30回 お薬との上手なつきあい方
第29回 帯状疱疹
第29回 足白癬・爪白癬
第28回 夏風邪
第28回 高山病
第28回 熱中症
第27回 足の病気
第26回 心不全
第25回 シェーグレン症候群
第24回 認知症
第23回 更年期障害
第22回 くも膜下出血
第21回 ウイルス性肝炎
第20回 心筋梗塞
第20回 狭心症
第19回 糖尿病の注意点
第19回 食後高血糖
第18回 肌のトラブル
第17回 前立腺の病気
第16回 脳梗塞
第15回 睡眠時無呼吸症候群
第14回 ピロリ菌
第13回 腸炎
第12回 スポーツ時の脳振とう
第12回 高齢者の慢性硬膜下血腫
第12回 子どもの頭部外傷
第11回 高血圧
第10回 口腔ケア
第9回 不整脈
第8回 消化器内視鏡検査でわかること
第7回 男性不妊症
第6回 肺炎
第6回 感染性胃腸炎
第6回 インフルエンザ
第5回 糖尿病
第4回 乳がん
第3回 野球肘
第2回 脳卒中にならないために
第1回 失神

第26回 心不全

心不全(上)

2018.5.22
生活習慣の影響で発症 3年以内に15%再入院

【相談者】
 Iさん 75歳男性。高血圧症で通院治療を受けています。最近パークゴルフを回るのがつらくなってきており、年のせいかと思っていましたが、春に健康診断を受けたところ心臓肥大を指摘されました。心臓が悪いのでしょうか。

 心臓の病気の一つに心不全があります。心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり生命を縮める病気です。

 原因としては(1)虚血性…心臓を養う血管が狭くなったり(狭心症)詰まったり(心筋梗塞)して心臓に十分なエネルギーが届けられなくなる病気(2)高血圧症性…血圧が高いため心臓に負担がかかる病気(3)弁膜症性…心臓の中にある弁が狭くなったり、うまく閉じなかったりして多くの血液が逆流する病気-が挙げられます。心臓の筋肉そのものが痛む心筋症や心房細動などの不整脈、高度な貧血でも発症することが知られています。

■患者数は?
 わが国の心不全患者は2005年に100万人でした。高齢化が進むにつれて増え、30年には130万人になると予測されています。男女とも年齢の上昇とともに心不全の発症率は上がり、患者の平均年齢は70歳です。

(上)表 心不全患者予測数

 入院治療が必要な人も増えており、16年には年間約25万人が心不全で入院しています。心不全患者の再入院率は高く、最近の報告でも3年で15%の人が再入院しています。

■リスク因子は?
 高血圧症は心不全を発症させます。塩分過多や生活習慣の乱れも高血圧を助長し、心臓に負担をかけます。

 糖尿病は、動脈硬化性疾患発症を起こす強い危険因子で、狭心症や心筋梗塞を発症させるだけでなく、糖尿病そのものも心機能を低下させることがあり重要な危険因子です。

 喫煙は心血管疾患の危険因子です。心不全の患者さんは、禁煙することで死亡率や入院率を軽減できます。大量の飲酒は心臓の筋肉が傷み、心筋症を発症する危険があります。運動習慣も関連があり、身体活動量が高い人ほど心不全発症リスクが軽減することが分かっています。

 遺伝性の病気、先天的な病気というものもありますが、多くは生活習慣が影響しています。これらのリスク因子は心不全を発症させるだけでなく、動脈硬化を進展させ、狭心症や心筋梗塞を発症したり、心房細動などの不整脈を生じたりした結果、心不全に至るケースもあります。

■症状は?
 心臓の機能が低下すると、初めは体内のホルモンや交感神経が活性化し、心機能を維持しようとします。それでも賄えなくなってきたら、症状を自覚し始めます。

 心不全の症状には余分な場所に水がたまるうっ血症状と、心臓から十分な血液を拍出できない低心拍出による症状があります。うっ血症状とは労作時息切れや動悸(どうき)、腹満感、食欲不振や顔や足のむくみです。低心拍出になると四肢冷感、低血圧、全身倦怠(けんたい)感が生じやすくなります。

 ひどくなると夜間発作性呼吸困難といって、就寝後1~2時間すると息苦しくて目が覚めて座っていると楽になる症状が現れます。重症になると座っていても息苦しく、会話することも苦しい起座呼吸になります。

 労作時の息切れは心不全以外でも、体力低下や肺疾患、貧血などさまざまな病気で出てきますが、夜間発作性呼吸困難は心不全である可能性が高い症状です。体がだるくて食欲がないのにむくみがひどくなることも、心不全悪化を疑うサインです。

(上)心不全の症状

 Iさんは高血圧症で心不全のリスク因子を持ち、労作時の息切れを自覚されていますので心不全の可能性があります。かかりつけの医師に精密検査を相談されてはいかがでしょうか。


心不全(中)

2018.5.29
ホルモン値測定し診断 進行性、予測難しく

【相談者】
 Iさん 66歳女性。糖尿病で通院治療を受けているのですが、兄が最近心筋梗塞になり入院治療を受けました。また最近、芸能人の方が心不全で亡くなるという報道も耳にしました。私の心臓は大丈夫でしょうか?

 不全かどうか診断するには、複数の検査があります。自覚症状やリスク因子の有無、心電図や胸部X線写真の所見から心不全を疑わせる症状があれば、まずBNP値またはNT-proBNP値を測定します。

■BNPとは?
 BNPは心臓を守るために心臓から分泌されるホルモンです。心臓への負担が大きいと数値が高くなることから、心不全の診断や経過を診るために血液検査で測定されます。加齢や腎機能障害があると高くなりやすく、肥満があると低値になりやすいため、明確に正常値と異常値を区別することは難しいのですが、おおよその目安があります(図1)。

(中)図1 BNP,NT-proBNP値の心不全診断への目安

 NT-proBNP値も同じく心不全の際に測定する項目ですが、BNPと基準値が異なります。よく似た名称なので、医療機関でどちらを測定されたのか確認して数値を見てください。

■他の検査は?
 体への負担の少ない検査として心エコー図検査があります。心臓の動きや心肥大の有無、弁狭窄(きょうさく)・閉鎖不全などを超音波により直接評価できます。また、心臓の中を流れる血流速度を測定して心臓にかかっている負荷を推測し、心機能を評価します。心臓が硬く広がりにくくなる拡張不全という状態では、一見心臓の動きは良く見えます。高齢者や女性に多く、心不全と診断される中で半数弱がこの拡張不全であり、BNP値測定や心エコー図検査が診断に有用です。

 これらの検査で心不全と判断する病的所見が認められれば診断確定です。しかし、安静での検査では異常が出ない病態もあります。狭心症がその一例です。狭心症は心臓を養う血管(冠動脈)が狭窄するため、心臓の機能が低下する病気です。狭心症が疑われれば冠動脈CT検査で冠動脈狭窄の有無を確認したり、運動や薬剤による負荷試験を行い、狭心症の診断をします。

 心臓病の検査には採血検査、心電図、胸部X線撮影、心エコー図検査、CT(コンピューター断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像装置)、核医学検査など、さまざまな検査があります。また心臓と関連する臓器に異常がないか確認するため、尿検査や呼吸機能検査、睡眠時無呼吸の検査を行うこともあります。それぞれの検査は診断のためだけでなく、心不全の程度や治療効果の判定、定期的な経過観察など、いろいろな場面で行われます。

■ステージとは?
 心不全も糖尿病や高血圧症と同じで、病気を発症する前に予防することから治療を始めるため、まず心不全の段階を四つのステージに分類します(図2)。心臓に変化がなく、心不全症状のない患者さんでも心不全リスク因子があればステージAとなります。心エコー図検査で左室肥大を指摘されたが、症状のない患者さんなどはステージBとなります。一方、心臓に変化があり、心不全症状が明らかな患者さんはステージC、有効な治療を受けても入退院を繰り返し、症状が取れない患者さんはステージDに分類され、各ステージに応じた治療が施されます。

(中)図2 心不全の進行具合

 心不全は進行していく病気であり、何より発症を予防し心臓病にならないことが大切です。心不全は原因となる疾患(心筋梗塞や弁膜症、不整脈など)の程度や、糖尿病・慢性腎臓病など併存する疾患によって進行具合が大きく異なり、将来の予測が難しい病気です。

 Iさんには糖尿病という心不全リスク因子があります。かかりつけ医に検診結果などを基に心不全の疑いがないか相談してみてください。


心不全(下)

2018.6.5
チーム医療で患者支援 基本は食事・運動・薬物

【相談者】
 Sさん 80歳女性。心臓弁膜症と診断されて、先日手術を受けて退院しました。入院中に先生方から病気のことを詳しく教えていただき、息切れもなくなり感謝しています。これまでは誰にも頼らず1人暮らしを続けたいと思っていましたが、手術を受けてからは何となく不安です。

■どんな治療
 食事で特に気を付けるのは塩分で、1日6グラム未満が目標です。初めて心不全と指摘された患者さんは、ぜひ栄養士に相談してください。意外に塩分が多い食事を取っていることがあり、調理法のちょっとしたこつで減塩が達成できます。

 少し息が弾む程度の運動を週3~5回、30分程度行ってください。運動療法には心肺機能の改善だけでなく、血管を丈夫にしたり、気分が落ち着いたりと、体の見えないところも元気にしてくれます。運動習慣のない人は主治医の先生と相談して始めてください。

 薬物療法で、早い段階から推奨されているのがACE阻害薬、βブロッカーいう降圧薬です。これらの薬剤は単に血圧を下げるだけでなく、心不全のときに過剰に分泌されるホルモンを抑える薬剤でもあり、病状によっては血圧値と関係なく投薬される場合があります。また、症状が出てきたときには利尿薬が追加されます。薬物療法は心臓を休ませることが原則です。心不全というと強心薬をイメージされますが、弱った心臓にむちを打つことはできるだけ避けます。

 心不全の原因が狭心症・心筋梗塞であれば、冠動脈形成術・冠動脈バイパス術といった血行再建術を行います。弁の具合が悪ければ弁置換術・弁形成術を行います。また不整脈に対しては、アブレーション治療やペースメーカー挿入などの手術を行うことがあります。さらに重症となれば心臓再同期療法(CRT)、人工心臓(VAD)や心臓移植が考えられます。

■憎悪因子とは
 心不全を悪化させる「増悪因子(表)」には、塩分の過剰摂取や服薬の中断、過労の蓄積、感染症など自分で注意できるものが多くあります。また日々の血圧、体重、脈拍数、心不全症状の有無を記録し、「見える化」することで急な心不全悪化を防ぐことも可能です。

(下)表 心不全の増悪因子

 そして、最近注目されている増悪因子がフレイルです。フレイルとは、高齢者において生理的予備能が低下してストレスに対する脆弱(ぜいじゃく)性が高まり、不健康を引き起こしやすい状態のことで体重減少、筋力低下、身体活動の低下などで判断します。年とともに痩せてきた人は要注意です。

■心臓リハビリとは
 セルフケアを重視した教育や相談、継続的な身体機能、社会的機能の評価を行い、心不全悪化の兆候を早期に発見・対処し健康寿命の延伸を図ること、これを「包括的心臓リハビリテーション」といいます。リハビリと言えば運動療法をイメージしがちですが、それだけではありません。患者さんを中心に医師、看護師、理学療法士、栄養士、薬剤師らの多職種チームで心不全患者さんを支えます(図)。

(下)図 包括的心臓リハビリテーションのイメージ

 これから心不全患者さんは増え、高齢化が予測されます。住み慣れた地域で長く暮らしていけるように、かかりつけ医や薬局、心臓リハビリ施設、介護施設、地域包括支援センターなどが連携し、地域チーム医療で患者さんを支えていくことが望まれます。

 Sさんへ。心臓リハビリテーションを始めてみませんか?
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