第33回 低温熱傷
皮膚の創傷 ~低温熱傷(上)~
2018.12.4
痛み伴わず進行 重症化するケースも
【相談者】
Aさん 82歳男性。腰にカイロを貼り、電気敷布の上で寝ていました。翌朝、家族がカイロを剥がしたところ、皮膚が赤くなり、水ぶくれができていました。
寒い季節になると、電気敷布をはじめ、使い捨てカイロや電気毛布、湯たんぽ、電気こたつといった暖房グッズが欠かせなくなります。それに伴い「低温熱傷(低温やけど)」を起こす人も増えます。これらの暖房グッズは、熱すぎず心地よい温度なので長時間使いがちになりますが、体の同じ部位に触れ続けるため、痛みを伴わず気付かないうちにやけどが進行してしまうこともあります。「低温熱傷」は一見、軽いやけどと思われがちですが、重症化してしまうケースも多く見られます。
■発生の原因
読んで字のごとく、「低温熱傷」とは、普通ならやけどをしないような低温の熱源を長時間接触することで発生する熱傷をいいます。
高温の物に触れた場合、通常ならほんの一瞬で「熱い」と反応し、反射的に熱源から離れるため、皮膚が触れる時間は短くなります。ところが、低温熱源に触れた場合は反射的に避けることはなく、そのまま熱源に触れっぱなしになり、皮膚の表面だけではなく、深い部分(皮下組織)まで長時間温め続け、やけどを負うことがあります(表1)。
低温といっても組織の変性・損傷を起こすには十分な温度であり、接触時間が長時間に及べば皮下組織の温度は上昇していきます。
本来、皮膚は非常に血流に富んでいます。ただ皮下組織は血流が乏しく、血流に富む皮膚の表面はある程度冷却されますが、皮下組織は冷却されにくいという性質があります。従って、低温熱源と長時間接触することによる組織の損傷は、皮膚表面より皮下組織の方で強くなり、皮下組織で強い組織変性が起こってしまいます。
このことから、受傷直後は比較的軽度の皮膚障害として見過ごされがちな低温熱傷ですが、後に深い創傷に移行してしまうことが多くみられます。ひどい場合は、皮膚に壊死が起こり、壊死が広範囲であれば中心部の皮膚を維持する血流がなくなり、徐々に壊死が進行してしまいます。受傷部位としては、下腿(かたい)・くるぶし・かかとなどに多くみられます。
■症状は?
「低温熱傷」は皮膚の薄い高齢者や子供、糖尿病や動脈疾患などにより血流障害や知覚鈍麻を来している人に起きやすくなります。また、健康な人や若者であっても、熟睡中や泥酔時には熱に気付かず発生することがあります。自分で動きにくい新生児や乳幼児、まひのある人も注意が必要です。熱傷の深さはI度、浅達性II度、深達性II度、III度の4段階に分類されます(図1、表2)。
I度は多くの場合、炎症を抑える外用剤などでほとんど後遺症を残さず治ります。II度になると、ヒリヒリとした痛みを伴います。部位と範囲にもよりますが、水ぶくれができるようであれば医療機関への受診をお勧めします。相談者のケースは症状から浅達性II度と考えられます。III度になると痛みを感じる神経まで損傷されるので逆に痛みがないのが特徴です。III度の場合は、皮膚の障害が治るのに時間がかかるため、小範囲の場合でも医療機関での治療をお勧めします。一般的に浅達性II度までの浅いやけどであれば、軟こうや傷を湿潤状態で保護する創傷被覆剤による治療で、後遺症もなく治るケースが多いのですが、深達性II度より深いやけどになると治療に時間がかかり、後遺症を残すこともあります。このため、場合によっては手術が必要となります。
【相談者】
Aさん 82歳男性。腰にカイロを貼り、電気敷布の上で寝ていました。翌朝、家族がカイロを剥がしたところ、皮膚が赤くなり、水ぶくれができていました。
寒い季節になると、電気敷布をはじめ、使い捨てカイロや電気毛布、湯たんぽ、電気こたつといった暖房グッズが欠かせなくなります。それに伴い「低温熱傷(低温やけど)」を起こす人も増えます。これらの暖房グッズは、熱すぎず心地よい温度なので長時間使いがちになりますが、体の同じ部位に触れ続けるため、痛みを伴わず気付かないうちにやけどが進行してしまうこともあります。「低温熱傷」は一見、軽いやけどと思われがちですが、重症化してしまうケースも多く見られます。
■発生の原因
読んで字のごとく、「低温熱傷」とは、普通ならやけどをしないような低温の熱源を長時間接触することで発生する熱傷をいいます。
高温の物に触れた場合、通常ならほんの一瞬で「熱い」と反応し、反射的に熱源から離れるため、皮膚が触れる時間は短くなります。ところが、低温熱源に触れた場合は反射的に避けることはなく、そのまま熱源に触れっぱなしになり、皮膚の表面だけではなく、深い部分(皮下組織)まで長時間温め続け、やけどを負うことがあります(表1)。
低温といっても組織の変性・損傷を起こすには十分な温度であり、接触時間が長時間に及べば皮下組織の温度は上昇していきます。
本来、皮膚は非常に血流に富んでいます。ただ皮下組織は血流が乏しく、血流に富む皮膚の表面はある程度冷却されますが、皮下組織は冷却されにくいという性質があります。従って、低温熱源と長時間接触することによる組織の損傷は、皮膚表面より皮下組織の方で強くなり、皮下組織で強い組織変性が起こってしまいます。
このことから、受傷直後は比較的軽度の皮膚障害として見過ごされがちな低温熱傷ですが、後に深い創傷に移行してしまうことが多くみられます。ひどい場合は、皮膚に壊死が起こり、壊死が広範囲であれば中心部の皮膚を維持する血流がなくなり、徐々に壊死が進行してしまいます。受傷部位としては、下腿(かたい)・くるぶし・かかとなどに多くみられます。
■症状は?
「低温熱傷」は皮膚の薄い高齢者や子供、糖尿病や動脈疾患などにより血流障害や知覚鈍麻を来している人に起きやすくなります。また、健康な人や若者であっても、熟睡中や泥酔時には熱に気付かず発生することがあります。自分で動きにくい新生児や乳幼児、まひのある人も注意が必要です。熱傷の深さはI度、浅達性II度、深達性II度、III度の4段階に分類されます(図1、表2)。
I度は多くの場合、炎症を抑える外用剤などでほとんど後遺症を残さず治ります。II度になると、ヒリヒリとした痛みを伴います。部位と範囲にもよりますが、水ぶくれができるようであれば医療機関への受診をお勧めします。相談者のケースは症状から浅達性II度と考えられます。III度になると痛みを感じる神経まで損傷されるので逆に痛みがないのが特徴です。III度の場合は、皮膚の障害が治るのに時間がかかるため、小範囲の場合でも医療機関での治療をお勧めします。一般的に浅達性II度までの浅いやけどであれば、軟こうや傷を湿潤状態で保護する創傷被覆剤による治療で、後遺症もなく治るケースが多いのですが、深達性II度より深いやけどになると治療に時間がかかり、後遺症を残すこともあります。このため、場合によっては手術が必要となります。
皮膚の創傷 ~低温熱傷(下)~
2018.12.11
すぐ患部冷やす 暖房器具使い方注意
【相談者】
Tさん 75歳女性。低温やけどだと気付いたとき、家庭でできる応急処置はありますか? また、どんなことに注意すれば防げますか?
「低温熱傷(低温やけど)」とは、使い捨てカイロや電気毛布、電気あんか、湯たんぽ、電気こたつなど、体温より少し高めの心地よいと感じる温度(44~50度)のものに長時間触れ続けることによって起こる熱傷です。
低温熱傷の受傷直後はあまり皮膚変化がなく、一見軽いやけどと思いがちですが、皮膚の深い部位の組織(皮下組織)を壊してしまった場合、手術が必要になることもあります。また、通常のやけどとは違い、見た目に分かりにくく、痛みを感じにくいことから重症化し、完治に時間がかかることもあるので注意が必要です。
■応急処置は?
熱傷は範囲や深さに応じた治療はもちろんですが、受傷直後の応急処置も大切です。受傷したら直ちに水道水を洗面器にためて、患部を浸してください。洗面器の水に浸すことができないときは、冷水に漬けた清潔なタオルを患部に当て冷やします。これを20分ほど継続します。30分以上冷やすと、子どもや高齢者は低体温を起こす可能性があるので気を付けましょう。体が震えてきた場合も低体温に注意してください。
衣服に覆われている部分を受傷したら、無理に脱がさず衣服の上から水をかけて冷やします。水ぶくれは破らず、もし破れている場合は、中の水だけを抜いて、水ぶくれの膜は残しておきます。食品用透明フィルムや清潔なタオルで覆い、速やかに医療機関を受診してください。
■予防は?
低温熱傷を起こさないために、日頃から暖房器具の使用時には次のような事柄に注意してください。
(1)直接、皮膚に暖房器具を当てない
(2)暖房器具が皮膚に当たっている場所を圧迫しない
(3)長時間、同じ部位に暖房器具を当てない
(4)少しでも熱さを感じたら、その時点で暖房器具から離れる
(5)寝ているときはできる限り暖房器具を使用しない
特に危険なのは、暖房器具に触れたまま眠ることです。湯たんぽは専用カバーや厚めのタオルなどに包んでも就寝中にずれてしまい、低温熱傷になる可能性があります。早めに布団に入れて温めておき、就寝時には取り出しましょう。電気あんか、電気毛布も布団を温めるのに用い、電源は寝る前に切ってください。特に高齢者や子どもなど皮膚感覚が弱い人、神経障害が進行して皮膚感覚が低下した糖尿病患者などは、長時間暖房器具に触れていても気付かないことがあるので、家族や周囲の人の配慮が必要です。
寒さが厳しい冬の季節には欠かせない暖房グッズですが、使い方を間違うと思いがけないけがにつながります。安全な使い方を心掛け、低温熱傷を未然に防ぎましょう。
【相談者】
Tさん 75歳女性。低温やけどだと気付いたとき、家庭でできる応急処置はありますか? また、どんなことに注意すれば防げますか?
「低温熱傷(低温やけど)」とは、使い捨てカイロや電気毛布、電気あんか、湯たんぽ、電気こたつなど、体温より少し高めの心地よいと感じる温度(44~50度)のものに長時間触れ続けることによって起こる熱傷です。
低温熱傷の受傷直後はあまり皮膚変化がなく、一見軽いやけどと思いがちですが、皮膚の深い部位の組織(皮下組織)を壊してしまった場合、手術が必要になることもあります。また、通常のやけどとは違い、見た目に分かりにくく、痛みを感じにくいことから重症化し、完治に時間がかかることもあるので注意が必要です。
■応急処置は?
熱傷は範囲や深さに応じた治療はもちろんですが、受傷直後の応急処置も大切です。受傷したら直ちに水道水を洗面器にためて、患部を浸してください。洗面器の水に浸すことができないときは、冷水に漬けた清潔なタオルを患部に当て冷やします。これを20分ほど継続します。30分以上冷やすと、子どもや高齢者は低体温を起こす可能性があるので気を付けましょう。体が震えてきた場合も低体温に注意してください。
衣服に覆われている部分を受傷したら、無理に脱がさず衣服の上から水をかけて冷やします。水ぶくれは破らず、もし破れている場合は、中の水だけを抜いて、水ぶくれの膜は残しておきます。食品用透明フィルムや清潔なタオルで覆い、速やかに医療機関を受診してください。
■予防は?
低温熱傷を起こさないために、日頃から暖房器具の使用時には次のような事柄に注意してください。
(1)直接、皮膚に暖房器具を当てない
(2)暖房器具が皮膚に当たっている場所を圧迫しない
(3)長時間、同じ部位に暖房器具を当てない
(4)少しでも熱さを感じたら、その時点で暖房器具から離れる
(5)寝ているときはできる限り暖房器具を使用しない
特に危険なのは、暖房器具に触れたまま眠ることです。湯たんぽは専用カバーや厚めのタオルなどに包んでも就寝中にずれてしまい、低温熱傷になる可能性があります。早めに布団に入れて温めておき、就寝時には取り出しましょう。電気あんか、電気毛布も布団を温めるのに用い、電源は寝る前に切ってください。特に高齢者や子どもなど皮膚感覚が弱い人、神経障害が進行して皮膚感覚が低下した糖尿病患者などは、長時間暖房器具に触れていても気付かないことがあるので、家族や周囲の人の配慮が必要です。
寒さが厳しい冬の季節には欠かせない暖房グッズですが、使い方を間違うと思いがけないけがにつながります。安全な使い方を心掛け、低温熱傷を未然に防ぎましょう。