第20回 心筋梗塞
狭心症と心筋梗塞 ~心筋梗塞~
2017.12.19
死因第2位 死亡率40% 我慢せず早期治療を
【相談者】
Nさん 55歳男性。1週間前から、急に胸が重苦しくなることがあり、頻度も増えていましたが、しばらく我慢しているとすっかり良くなるため、大丈夫だと思っていました。会社で仕事中に突然、これまで以上に胸が苦しくなり、冷や汗や吐き気を伴いました。治まるだろうと我慢していましたが、見かねた同僚が救急車を要請し、病院で心筋梗塞だと分かりました。
心臓は全身に血液を送り出し生命を支えています。心臓の動きは、冠動脈を通して運ばれた血液で維持されています。動脈硬化で冠動脈が詰まり、心臓への血流が途絶え、心臓の一部が死んでしまった状態が心筋梗塞です。
■患者数は?
日本人の死因のうち、心疾患は悪性新生物(がん)に次いで第2位です。中でも心筋梗塞で年間約4万人が死亡しています。そのうち入院後に亡くなる人が約6千人で、残りの3万4千人は病院到着前に亡くなっています。心筋梗塞はひとたび発症するとその死亡率は40%と高く、多くは病院で治療を受ける前に死亡(突然死)しているのです。一方、心筋梗塞で入院した人の死亡率は10%以下で、早期の治療によって多くの命が救われています。
心筋梗塞は、高齢の男性に多い病気ですが、5%は40歳未満でも発症し、75歳以上の女性にも多い病気です。
■症状は?
胸が突然に「焼けるように重苦しい」、「押しつぶされる」、「締め付けられる」ようになり、それに伴い「冷や汗が出る」「吐き気があったり、吐いたりすることもある」のが特徴です。症状は長く続き「15分以上」、時には「数時間も続く」こともあります(表1)。多くの場合、狭心症よりもすさまじい症状で、長く続き、血管を広げるニトログリセリンなどの狭心症発作薬が効きません。
心筋梗塞は一刻を争う危険な病気です。そのため我慢せず、すぐに救急車を呼んでください。発作で気を失うこともあるため、自動車運転は非常に危険です。一方、心筋梗塞の約半数に前兆の発作があります(表2)。これらの発作を軽く思わず、早い段階で治療を受けましょう。
■検査と治療は?
心電図や心エコー、血液検査などで検査します。心筋梗塞が起こった後、時間がたつにつれ障害が進行するため、速やかに診断を確定し、迅速に治療を始めます。
心筋梗塞が起きた直後であれば、塞がった冠動脈をバルーン(風船)やステント(コイル状の金属)などで拡張し、途絶えた血流を再開させるPCI(冠動脈カテーテルインターベンション)を実施します(図)。緊急対応できる施設は限られていますので、救急車を呼び、搬送してもらいましょう。
発症直後は、不整脈で心臓が止まったり、傷んだ心臓が破裂したりする危険性が高いため、入院後しばらくは集中治療が必要となります。
【相談者】
Nさん 55歳男性。1週間前から、急に胸が重苦しくなることがあり、頻度も増えていましたが、しばらく我慢しているとすっかり良くなるため、大丈夫だと思っていました。会社で仕事中に突然、これまで以上に胸が苦しくなり、冷や汗や吐き気を伴いました。治まるだろうと我慢していましたが、見かねた同僚が救急車を要請し、病院で心筋梗塞だと分かりました。
心臓は全身に血液を送り出し生命を支えています。心臓の動きは、冠動脈を通して運ばれた血液で維持されています。動脈硬化で冠動脈が詰まり、心臓への血流が途絶え、心臓の一部が死んでしまった状態が心筋梗塞です。
■患者数は?
日本人の死因のうち、心疾患は悪性新生物(がん)に次いで第2位です。中でも心筋梗塞で年間約4万人が死亡しています。そのうち入院後に亡くなる人が約6千人で、残りの3万4千人は病院到着前に亡くなっています。心筋梗塞はひとたび発症するとその死亡率は40%と高く、多くは病院で治療を受ける前に死亡(突然死)しているのです。一方、心筋梗塞で入院した人の死亡率は10%以下で、早期の治療によって多くの命が救われています。
心筋梗塞は、高齢の男性に多い病気ですが、5%は40歳未満でも発症し、75歳以上の女性にも多い病気です。
■症状は?
胸が突然に「焼けるように重苦しい」、「押しつぶされる」、「締め付けられる」ようになり、それに伴い「冷や汗が出る」「吐き気があったり、吐いたりすることもある」のが特徴です。症状は長く続き「15分以上」、時には「数時間も続く」こともあります(表1)。多くの場合、狭心症よりもすさまじい症状で、長く続き、血管を広げるニトログリセリンなどの狭心症発作薬が効きません。
心筋梗塞は一刻を争う危険な病気です。そのため我慢せず、すぐに救急車を呼んでください。発作で気を失うこともあるため、自動車運転は非常に危険です。一方、心筋梗塞の約半数に前兆の発作があります(表2)。これらの発作を軽く思わず、早い段階で治療を受けましょう。
■検査と治療は?
心電図や心エコー、血液検査などで検査します。心筋梗塞が起こった後、時間がたつにつれ障害が進行するため、速やかに診断を確定し、迅速に治療を始めます。
心筋梗塞が起きた直後であれば、塞がった冠動脈をバルーン(風船)やステント(コイル状の金属)などで拡張し、途絶えた血流を再開させるPCI(冠動脈カテーテルインターベンション)を実施します(図)。緊急対応できる施設は限られていますので、救急車を呼び、搬送してもらいましょう。
発症直後は、不整脈で心臓が止まったり、傷んだ心臓が破裂したりする危険性が高いため、入院後しばらくは集中治療が必要となります。
狭心症と心筋梗塞 ~心筋梗塞の予防~
2017.12.26
喫煙で発症率4倍 塩分控え適度な運動を
【相談者】
Oさん 45歳男性。妻から「たばこをやめなさい。運動して体重を落としなさい」と言われています。検診で血圧が高く、血糖値やコレステロール値も高かったため、再検査を指示され、受診しました。
喫煙や肥満、運動不足は、動脈硬化になる危険性を高めます。動脈硬化によって冠動脈が狭くなったり、詰まったりすることで、心臓への血流が不足し、狭心症や心筋梗塞が起こります。つまり、動脈硬化にならないようにすることが、狭心症や心筋梗塞の予防につながります。
■動脈硬化の原因は?
動脈硬化は血管にたまったコレステロールや免疫反応による炎症が関係していると考えられていますが、動脈硬化になりやすい人の特徴(危険因子)も明らかになっています。喫煙、高血圧、脂質異常、糖尿病、運動不足といった危険因子をなくすことで動脈硬化が予防できることが分かっています。
喫煙により、狭心症や心筋梗塞の発症率はたばこを吸わない人の4倍、突然死は10倍、脳梗塞は4倍になると報告されています。たばこを吸っていた人も禁煙することで年々動脈硬化の危険性は減少し、10~15年で元に戻ると言われています。
■周囲への影響は?
「受動喫煙」という言葉もあるように、たばこの害は喫煙者本人だけではなく、周りの人にも影響を及ぼします。夫が1日20本以上喫煙すると、たばこを吸わない妻の心筋梗塞発症率は33%増加します。
受動喫煙防止法の制定後、たばこを吸わない人の心筋梗塞発症率が20%以上減った国もあります。単純に日本に当てはめると、年間8千人の死亡者を減らせるかもしれません。残念ながら日本では受動喫煙防止の対策強化が先送りされました。
血圧にも気を付けましょう。高血圧になると心筋梗塞のリスクが3倍にもなるといわれています。表1の通り、病状や年齢に応じた治療目標値が設定されていますが、その他の原因により一人一人の治療目標が異なりますので、詳細はかかりつけの医師にご確認ください。
食事の塩分を控え、適度な運動をすることで血圧は低下します。他に危険因子がない場合でも、血圧180/110mmHg(上か下、どちらかが)以上の高血圧では数日以内の治療開始が必要です。
■コレステロールは?
血液中のコレステロールや中性脂肪など(血清脂質)に異常がある場合も、動脈硬化を引き起こします。主な脂質の異常は、悪玉(LDL)コレステロール、善玉(HDL)コレステロール、中性脂肪(トリグリセライド)の三つと、そのバランスです。
中でも悪玉コレステロールは、低下するほど心臓病発症が減ることが分かっています。他の危険因子がない場合、悪玉コレステロール180mg/dl以上が薬物治療開始の目安となります。治療目標は病状により異なり、危険因子や疾病の有無により区分され設定されています。
最近、日本人の6人に1人と増加している糖尿病や糖尿病予備軍では、動脈硬化がより早く進行し心筋梗塞などが6倍にも増加します。血糖を下げることで心筋梗塞を減らすことができますが、下がり過ぎて低血糖を起こすとかえって心筋梗塞が増えます。病状により治療目標が異なりますので、詳細はかかりつけの医師にご確認ください。
運動不足は、心筋梗塞の増加と関連します。日常的なウオーキング、ジョギングや外来での心臓リハビリテーションなどの運動を継続することにより、カテーテル治療に匹敵する心臓病予防効果が報告されています。1回30分以上の運動を週3回以上(できれば毎日)、または週180分以上行うことが推奨されています。
【相談者】
Oさん 45歳男性。妻から「たばこをやめなさい。運動して体重を落としなさい」と言われています。検診で血圧が高く、血糖値やコレステロール値も高かったため、再検査を指示され、受診しました。
喫煙や肥満、運動不足は、動脈硬化になる危険性を高めます。動脈硬化によって冠動脈が狭くなったり、詰まったりすることで、心臓への血流が不足し、狭心症や心筋梗塞が起こります。つまり、動脈硬化にならないようにすることが、狭心症や心筋梗塞の予防につながります。
■動脈硬化の原因は?
動脈硬化は血管にたまったコレステロールや免疫反応による炎症が関係していると考えられていますが、動脈硬化になりやすい人の特徴(危険因子)も明らかになっています。喫煙、高血圧、脂質異常、糖尿病、運動不足といった危険因子をなくすことで動脈硬化が予防できることが分かっています。
喫煙により、狭心症や心筋梗塞の発症率はたばこを吸わない人の4倍、突然死は10倍、脳梗塞は4倍になると報告されています。たばこを吸っていた人も禁煙することで年々動脈硬化の危険性は減少し、10~15年で元に戻ると言われています。
■周囲への影響は?
「受動喫煙」という言葉もあるように、たばこの害は喫煙者本人だけではなく、周りの人にも影響を及ぼします。夫が1日20本以上喫煙すると、たばこを吸わない妻の心筋梗塞発症率は33%増加します。
受動喫煙防止法の制定後、たばこを吸わない人の心筋梗塞発症率が20%以上減った国もあります。単純に日本に当てはめると、年間8千人の死亡者を減らせるかもしれません。残念ながら日本では受動喫煙防止の対策強化が先送りされました。
血圧にも気を付けましょう。高血圧になると心筋梗塞のリスクが3倍にもなるといわれています。表1の通り、病状や年齢に応じた治療目標値が設定されていますが、その他の原因により一人一人の治療目標が異なりますので、詳細はかかりつけの医師にご確認ください。
食事の塩分を控え、適度な運動をすることで血圧は低下します。他に危険因子がない場合でも、血圧180/110mmHg(上か下、どちらかが)以上の高血圧では数日以内の治療開始が必要です。
■コレステロールは?
血液中のコレステロールや中性脂肪など(血清脂質)に異常がある場合も、動脈硬化を引き起こします。主な脂質の異常は、悪玉(LDL)コレステロール、善玉(HDL)コレステロール、中性脂肪(トリグリセライド)の三つと、そのバランスです。
中でも悪玉コレステロールは、低下するほど心臓病発症が減ることが分かっています。他の危険因子がない場合、悪玉コレステロール180mg/dl以上が薬物治療開始の目安となります。治療目標は病状により異なり、危険因子や疾病の有無により区分され設定されています。
最近、日本人の6人に1人と増加している糖尿病や糖尿病予備軍では、動脈硬化がより早く進行し心筋梗塞などが6倍にも増加します。血糖を下げることで心筋梗塞を減らすことができますが、下がり過ぎて低血糖を起こすとかえって心筋梗塞が増えます。病状により治療目標が異なりますので、詳細はかかりつけの医師にご確認ください。
運動不足は、心筋梗塞の増加と関連します。日常的なウオーキング、ジョギングや外来での心臓リハビリテーションなどの運動を継続することにより、カテーテル治療に匹敵する心臓病予防効果が報告されています。1回30分以上の運動を週3回以上(できれば毎日)、または週180分以上行うことが推奨されています。