ほっとホスピタル 病と健康
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第37回 末梢動脈疾患
第36回 脳卒中予防のための血圧管理
第35回 尿路結石症
第34回 骨粗しょう症
第34回 大腿骨近位部骨折
第33回 スキン‐テア(皮膚裂傷)
第33回 低温熱傷
第32回 そけいヘルニア
第31回 めまいを起こす病気
第30回 お薬との上手なつきあい方
第29回 帯状疱疹
第29回 足白癬・爪白癬
第28回 夏風邪
第28回 高山病
第28回 熱中症
第27回 足の病気
第26回 心不全
第25回 シェーグレン症候群
第24回 認知症
第23回 更年期障害
第22回 くも膜下出血
第21回 ウイルス性肝炎
第20回 心筋梗塞
第20回 狭心症
第19回 糖尿病の注意点
第19回 食後高血糖
第18回 肌のトラブル
第17回 前立腺の病気
第16回 脳梗塞
第15回 睡眠時無呼吸症候群
第14回 ピロリ菌
第13回 腸炎
第12回 スポーツ時の脳振とう
第12回 高齢者の慢性硬膜下血腫
第12回 子どもの頭部外傷
第11回 高血圧
第10回 口腔ケア
第9回 不整脈
第8回 消化器内視鏡検査でわかること
第7回 男性不妊症
第6回 肺炎
第6回 感染性胃腸炎
第6回 インフルエンザ
第5回 糖尿病
第4回 乳がん
第3回 野球肘
第2回 脳卒中にならないために
第1回 失神

第34回 大腿骨近位部骨折

大腿骨近位部骨折と骨粗しょう症 ~大腿骨近位部骨折(上)~

2019.1.8
生命予後 悪化の可能性 手術後すぐリハビリ

【相談者】
 Tさん 75歳女性。自宅で転倒してから股関節が痛くて動けず、救急車で病院に搬送されました。大腿骨(だいたいこつ)の股関節側に骨折があり、手術が必要と言われました。症状や治療法など教えてください。

 高齢になると若い時と比べて骨がもろくなり、転倒した際などに骨折しやすくなります。正しい治療を受けずにいると、そのまま寝たきりにつながり、その後の生命予後(病気やけがの経過が命に与える影響)を悪化させてしまう可能性があるため、けがをしたらすぐに受診して診断を受けることが肝心です。

■どんなけが?
 脚の付け根の関節が股関節です。股関節は太ももの骨である大腿骨と骨盤で構成されています。大腿骨の球形をした部分は骨頭といい、そのすぐ細くなった部分を頚部(けいぶ)と言います。ちょうど人間の頭と首の関係です。さらに、頚部は太く出っ張った部分につながり、この場所を転子部といいます。それぞれの部位での骨折を大腿骨頚部骨折、大腿骨転子部骨折と言います(図)。 

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■原因は?
 大腿骨頚部骨折や大腿骨転子部骨折は、高齢者に起きやすく、原因で最も多いのが転倒です。加齢に伴う運動能力の低下と視力障害で転びやすく、加えて骨粗しょう症などで骨がもろくなっているからです。中でも女性に圧倒的に多い疾患です。

 また、これらの骨折は生命予後を悪化するとされ、積極的に防止する必要性が訴えられています。特に、転子部骨折は骨粗しょう症と強い関連があるとされており、日本人は欧米人に比べて頚部骨折よりも転子部骨折の頻度が高いとされています。

■治療方法は?
 治療の目的は、痛みの抑制と歩行能力の改善の2点です。大きく分けて、手術をしない場合とする場合があります。麻酔管理法や手術方法が確立されていない時代では、大腿骨頚部骨折や大腿骨転子部骨折は、長い間ベッドで寝ながら引っ張る治療が行われてきました。しかし、その間に床ずれや肺炎、尿路感染症といった内科の病気を合併したり、骨はくっついたものの、リハビリを始めようとしたときには筋肉が落ちてしまい、結果的に歩行が困難となったりすることが多く見受けられました。そこで、今日では早期リハビリや、内科疾患の併発予防のために手術治療を選択されることが多くなっています。

 大腿骨頚部骨折では、ずれの大きな骨折だと、人工骨頭置換術や人工関節置換術を選び、小さいずれだと金属製のスクリューやプレートを用いて骨をつなぐ手術を選ぶケースが多くなります(写真①)。一方で、大腿骨転子部骨折では、ずれている骨折部を元に近い形に戻し、金属製の髄内釘(ずいないてい)やプレート、ネジなどを使って骨折部をつなぐ手術をします(写真②)。

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(写真はいずれも済生会富山病院提供)

 いずれも、手術後はギプスなどで固定する必要は少なく、できるだけ手術翌日から動く練習を始めます。また、一度大腿骨近位部骨折を起こした場合、反対側の骨折のリスクは3~4倍に増加するとされ、予防も重要になります。


大腿骨近位部骨折と骨粗しょう症 ~大腿骨近位部骨折(下)~

2019.1.15
体幹鍛え転倒予防 「ハンドニー」に効果

【相談者】
 Tさん 75歳女性。自宅で転んで、大腿骨(だいたいこつ)の股関節側を骨折し、手術を受けました。今後骨折を繰り返さないために注意すべきことや予防法はありますか?

 大腿骨近位部骨折の原因の70%以上が高齢者の転倒という報告があります。つまり、若い頃から転びにくい体づくりをしていくことが重要となります。

 人が体を動かす場合、運動器と呼ばれる筋肉や骨、関節、神経などが連動して働いています。これら一連の過程で、筋肉と骨は強くすることができます。今回は、筋肉に関してお伝えします。

■食事は?
 筋肉を強くするためには、
(1)筋肉を増やす材料としての栄養摂取
(2)筋肉を鍛える運動
という観点から考えます。

 まず、最初に筋肉を増やす(いわゆる「貯筋(ちょきん)」)のためには、効率的な栄養摂取が不可欠です。低脂肪、高タンパク質、かつ必須アミノ酸含有量が多い鶏のむね肉(皮なし)や牛肉の赤身、魚ではマグロ、カツオ、サケなどが有効です。1食当たりに推奨されるタンパク質の摂取量は、目安としてご自身の手のひらのサイズという報告があります(図1)。ぜひ、食事の際には手のひらの面積と厚みを参考にしてください。ただ、腎臓の病気を指摘されている方は、掛かり付け医師に相談するのがよいでしょう。

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■運動は?
 運動は日常生活に取り入れることができます。まず、足の筋肉を鍛える方法として、運動の時間を無理に取らなくても、物を持ち上げる、しゃがんだ姿勢で作業する際にスクワットを行う、エレベータではなく階段を使用するといった生活習慣の改善を行うことが有用です。

 転倒予防には、なんといっても体幹の筋肉を鍛えることが重要となります。体幹の筋肉には、内側にあるローカル筋と外からも見えるグローバル筋があります。この中で、背骨のすぐ近くにあるローカル筋を鍛えるトレーニングのことを「体幹トレーニング」と呼んでます。体幹トレーニングにはたくさんの方法がありますが、今回は自宅で実践できるトレーニングをいくつか紹介します。 

■トレーニングは?
 最も有名な体幹トレーニングとして、おなかを引っ込めたまま呼吸をする「ドローイン」(図2)という方法があります。他にも、お尻を上下する運動の「バックブリッジ」(図3)や、四つんばいになって片脚を伸ばす「ハンドニー」(図4)が有用です。これらは腰痛予防にも効果があり、体力に自信のない人でも行える万能トレーニングです。

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 転倒を防ぐためには、転ばないための筋力、姿勢を保つバランス能力を維持することが大事です。日頃から筋肉を強くするためのタンパク質摂取や、日常生活で取り入れることができる運動を無理のない範囲で実践し、続けてみてください。




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