ほっとホスピタル 病と健康
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第37回 末梢動脈疾患
第36回 脳卒中予防のための血圧管理
第35回 尿路結石症
第34回 骨粗しょう症
第34回 大腿骨近位部骨折
第33回 スキン‐テア(皮膚裂傷)
第33回 低温熱傷
第32回 そけいヘルニア
第31回 めまいを起こす病気
第30回 お薬との上手なつきあい方
第29回 帯状疱疹
第29回 足白癬・爪白癬
第28回 夏風邪
第28回 高山病
第28回 熱中症
第27回 足の病気
第26回 心不全
第25回 シェーグレン症候群
第24回 認知症
第23回 更年期障害
第22回 くも膜下出血
第21回 ウイルス性肝炎
第20回 心筋梗塞
第20回 狭心症
第19回 糖尿病の注意点
第19回 食後高血糖
第18回 肌のトラブル
第17回 前立腺の病気
第16回 脳梗塞
第15回 睡眠時無呼吸症候群
第14回 ピロリ菌
第13回 腸炎
第12回 スポーツ時の脳振とう
第12回 高齢者の慢性硬膜下血腫
第12回 子どもの頭部外傷
第11回 高血圧
第10回 口腔ケア
第9回 不整脈
第8回 消化器内視鏡検査でわかること
第7回 男性不妊症
第6回 肺炎
第6回 感染性胃腸炎
第6回 インフルエンザ
第5回 糖尿病
第4回 乳がん
第3回 野球肘
第2回 脳卒中にならないために
第1回 失神

第32回 そけいヘルニア

そけいヘルニア(上)

2018.11.13
筋膜の代謝異常が原因 大人は自然に治らず

【相談者】
 Hさん 75歳男性。数年前から立つと右足の付け根が膨らみ、ときどき痛みがあります。最近はあおむけになっても膨らみが残り、手で押しこんでいます。脱腸ではないかと思うのですが、症状や検査方法など教えてください。

 ヘルニアとは、臓器などが本来あるべき位置から体の弱い部分や、隙間からはみ出た状態をいいます。「そけい」とは、太ももの付け根部分のことをいい、この部にはみ出るのが「そけいヘルニア」です。はみ出る臓器は小腸が多いため、「脱腸」とも呼ばれています。

 そけいヘルニアは、部位によって「外そけいヘルニア」「内そけいヘルニア」「大腿(だいたい)ヘルニア」の3種類に分けられます(図1)。

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■原因と頻度
 子どものそけいヘルニアの多くは生まれつきですが、大人の場合は、代謝異常が起こることでおなかの筋肉を覆っている筋膜や腱膜(けんまく)が弱くなり、加齢とともに増加するといわれています。この代謝異常は体の両側に起こます。そのためヘルニアは両側に起こったり、片側だったヘルニアがしばらくたってから反対側に出たりすることがあります。

 わが国では、毎年15万人程度の患者さんが手術を受けていますが、恥ずかしいなどの理由で受診されない人も多いため、潜在的な患者さんはさらに多いと推測されます。生涯にそけいヘルニア手術を受けるリスクは男性で27・2%、女性で2・6%といわれています。

 そけいヘルニアの手術を受ける患者さんの80%は男性です。また、加齢とともに筋膜・腱膜が弱くなり、さらに普段からおなかに負担がかかりやすい状態が続いている方は、そけいヘルニアになりやすくなってしまいます(図2)。

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■症状は?
 次のような症状に思い当たることがあれば、そけいヘルニアの可能性があります。
(1)立ち上がったり、おなかに力を入れると、太ももの付け根が膨らむ。
   脱出が陰のうまでおよぶと陰のうが腫れることもある。
(2)ふくらみやしこりは体を横にしたり、手で押さえると消えることがある。
(3)太ももの付け根に軽い痛みやつっぱりがある。

 臓器が飛び出したまま戻らず、強い腹痛やはみ出た部分に痛みがある場合は「嵌頓(かんとん)」の可能性があります。嵌頓とは、はみ出た腸がおなかの中に戻らなくなった状態のことです。そのまま放置すると脱出した腸管は、腸閉塞の状態となり、血行障害のため破裂することがあります。まさに赤信号の状態ですので、早急に受診する必要があります。緊急手術を要することも少なくありません。

■診察・検査は?
 受診されるとまず問診、患部の視診・触診を行います。診察時に臓器がはみ出ていれば診断は容易ですが、そうでない場合は診断が困難となることがあり、CTなどの画像検査を行うことがあります。

 そけいヘルニアは、赤ちゃんのとき以外は自然に治ることはありませんので、診断されたら手術をお勧めします。手術の場合は、胸腹部レントゲン検査、採血、心電図、呼吸機能検査などを行います。

 大人のそけいヘルニアは自然治癒することはありませんので、思い当たる症状があれば早々に外科を受診しましょう。




そけいヘルニア(下)

2018.11.20
人工膜で腹壁補強 手術翌日に歩行可能

【相談者】
 Hさん 75歳男性。立つと右足の付け根にふくらみがあり、病院を受診したところ「そけいヘルニア」と診断され、手術を勧められました。どんな治療法があるのですか? 手術後の注意点なども教えてください。

■治療法は?
 子どものそけいヘルニアは、生後6カ月以内であれば約30%程度は自然治癒するといわれていますが、1歳以降ではほとんど自然に治ることがなく、基本的には手術による治療が必要です。手術は通常、全身麻酔をした後、2センチほど切開し、はみ出た腸管などが入る腹膜の余り(ヘルニア嚢(のう))の根元の出口を糸で結んで閉じるだけです。ヘルニアが疑わしい場合は、小児外科の受診をお勧めします。

 大人は、自然治癒することはありませんので、原則手術が必要です。手術はヘルニアの出口(ヘルニア門)を閉じ、弱くなった腹壁を補強することが基本です。その方法として(1)自分の組織を利用して補強する(2)人工膜(メッシュ)を用いて補強する-の二つがあります。

 自分の組織を利用して補強する方法は感染には強いのですが、もともと弱くなった周辺組織(筋肉や筋膜)を使って補強するため再発が多く、手術後の痛みやつっぱり感が続くことが欠点です。今では感染が危惧されるなどの理由で、限られた状況でのみ行われています。

 人体に埋め込んでも問題がない素材で作られたメッシュを使い、弱くなった部分を補強する方法は、感染に弱いという欠点はありますが、現在はこの方法が主流となっています。さまざまな補強法やメッシュが採用され、最近は従来のヘルニアの膨らみの上を切開して治療する「前方アプローチ」のほか、腹腔(ふくくう)鏡を用いて5~10ミリ程度の切開を3カ所に行い、おなかの中からメッシュで補強する「腹腔鏡下手術」もあります。それぞれの手術には利点・欠点がありますので、担当医とよく相談しましょう。

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 いずれの方法も翌日には歩行や食事が可能となり、通常切開創は埋没縫合しますので3日後には入浴できます。日帰り手術を行っている病院もあります。座っての仕事は退院後すぐに、軽い運動は1週間ほどで可能です。おなかに圧がかかる力仕事は1カ月後がめどとなります。

■合併症と注意点
 手術の危険性は、胃や大腸、肝臓の手術などに比べると少ないのですが、合併症として以下の症状が低率ながら起こることがあります。

(1)皮下出血が起こる場合があります。発症頻度は0・5%以下で、出血の多くは自然に収まりますが、血液をさらさらにする薬を服用中の方は注意が必要です。

(2)手術創やメッシュへの細菌感染による炎症が考えられます。創感染は1%未満で、メッシュ 感染は千人に1人程度といわれています。いったん感染するとメッシュを取り出す再手術が 必要となる場合があります。

(3)創部に水が溜まる漿液腫(しょうえきしゅ)は、術後数日で発生しますが、多くは経過観察で 大丈夫です。

(4)術後数週間以上経過しても痛みが伴う術後慢性疼痛(とうつう)は、手術部位の神経損傷が 原因と考えられるので、再診が必要です。

(5)ヘルニアの再発率は1%未満ですが、内そけいヘルニアの患者にやや多い傾向がみられま す。

 補強したメッシュのため、手術後はそけい部につっぱり感や違和感が残ることがあります。創部が赤くなったり、腫れたりした場合は医師にご相談ください。また、日常生活では野菜や水分を取り、便秘にならないよう心掛けてください。腹圧がかかるため肥満を解消し、せきやくしゃみが続く場合は、原因を除くようにしましょう。


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