ほっとホスピタル 病と健康
ほっとホスピタル病と健康TOP
第37回 末梢動脈疾患
第36回 脳卒中予防のための血圧管理
第35回 尿路結石症
第34回 骨粗しょう症
第34回 大腿骨近位部骨折
第33回 スキン‐テア(皮膚裂傷)
第33回 低温熱傷
第32回 そけいヘルニア
第31回 めまいを起こす病気
第30回 お薬との上手なつきあい方
第29回 帯状疱疹
第29回 足白癬・爪白癬
第28回 夏風邪
第28回 高山病
第28回 熱中症
第27回 足の病気
第26回 心不全
第25回 シェーグレン症候群
第24回 認知症
第23回 更年期障害
第22回 くも膜下出血
第21回 ウイルス性肝炎
第20回 心筋梗塞
第20回 狭心症
第19回 糖尿病の注意点
第19回 食後高血糖
第18回 肌のトラブル
第17回 前立腺の病気
第16回 脳梗塞
第15回 睡眠時無呼吸症候群
第14回 ピロリ菌
第13回 腸炎
第12回 スポーツ時の脳振とう
第12回 高齢者の慢性硬膜下血腫
第12回 子どもの頭部外傷
第11回 高血圧
第10回 口腔ケア
第9回 不整脈
第8回 消化器内視鏡検査でわかること
第7回 男性不妊症
第6回 肺炎
第6回 感染性胃腸炎
第6回 インフルエンザ
第5回 糖尿病
第4回 乳がん
第3回 野球肘
第2回 脳卒中にならないために
第1回 失神

第5回 糖尿病

糖尿病(上)~原因~ 

2016.11.15
遺伝・環境因子が影響 初期は自覚症状なし

【相談者】
 Sさん 52歳男性。会社の健康診断で高血糖を指摘されました。特に自覚症状はないのですが、糖尿病の精密検査を受けるため、受診しました。

 糖尿病の発症には、すい臓から分泌されるインスリンというホルモンが関係しています。インスリンはブドウ糖を体のさまざまな細胞へ送り込み、エネルギーとして利用するのを助ける働きをしています。糖尿病は、インスリンの分泌が不足したり、働きが悪くなったりすることにより、血液中のブドウ糖(血糖)が多くなりすぎた状態(高血糖)が長く続く病気です。

 今月14日~20日は世界糖尿病週間です。世界的に患者数が増えている糖尿病の予防や治療の啓発を目的とし、全国各地でテーマカラーであるブルーのライトをともす行事が行われます。県内では富山城や富岸運河環水公園などがブルーにライトアップされています。

 2012年国民健康・栄養調査によると、国内の糖尿病患者数は約950万人、糖尿病予備軍の患者数は約1100万人と推定され、40歳以上の3人に1人が糖尿病かその予備軍に相当します。そのうち約30%の人はほとんど治療を受けていません。自覚症状に乏しいため、医療機関を受診しなかったり、治療を中断したりして、高血糖による全身の様々な病気(合併症)が発症、進行しやすくなることが問題となっています。

 糖尿病には、大きく分けて1型と2型の2種類の病型があります。日本では、2型糖尿病が糖尿病全体の95%を占めています。1型2型のほかに、単一の遺伝子異常による糖尿病や、他の病気、薬剤に伴っておこる糖尿病、妊娠糖尿病があります。

■原因は?
 1型糖尿病は、すい臓のベータ細胞が破壊され、インスリンをほとんど分泌できなくなるタイプの糖尿病です。子どもや若い人に多く見られますが、中高年の人にも認められます。

 2型糖尿病の発症原因には、遺伝因子と環境因子があります。遺伝因子とは、日本人が持っている2型糖尿病になりやすい体質です。環境因子とは過食、運動不足、肥満、ストレスなどの生活習慣です。これらの因子が重なって、糖尿病は発症すると考えられています。2型糖尿病はおもに40歳以降で発症しますが、20~30代の発症も増加しています。

■症状は?
 糖尿病の早期には、自覚症状がほとんどありません。進行して血糖値の高い状態が続くと、尿の量が多くなる(多尿)、のどが渇く(口渇)、水分をたくさん飲む(多飲)、体重が減る、疲れやすくなる-といった自覚症状が現れます。

 糖尿病かどうかは、表1のように血糖値とHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の値から診断します。HbA1cは最近1~2カ月間の血糖値の平均値を表し、基準値は4・6~6・2%とされています。

(上)表1 糖尿病の診断

■治療目標は?
 糖尿病の血糖コントロールの指標となるのはHbA1cです。13年からHbA1cの目標値は三つに分類され、患者さんに合わせて選択されます(表2)。特にHbA1c7%未満は、糖尿病合併症の予防のための基本目標となります。

(上)表2 血糖コントロール

 今年5月には、65歳以上の高齢者糖尿病の血糖コントロール目標が発表されました。高齢の患者さんは心身機能の個人差が大きく、重症低血糖を起こしやすい問題点があります。そのため年齢、認知機能、日常生活動作、重症低血糖が心配される薬剤の有無によって、コントロール目標を個別に設定することになりました。


糖尿病(中)~合併症~

2016.11.22
放置すると全身で発症 「予備軍」も要注意

【相談者】
 Sさん 52歳男性。病院で血液検査をしたところ、2型糖尿病と診断されました。これから糖尿病合併症の有無について調べることになりました。

 糖尿病を放置していると、高血糖によって全身でさまざまな病気(合併症)を発症します。糖尿病の治療の目標は合併症の発症と進行を予防することです。

■三大合併症とは?
 神経障害、眼の網膜症、腎症は糖尿病の三大合併症と言われ、糖尿病に特徴的な病気です。神経、網膜、腎臓に分布する毛細血管に生ずるため「細小血管障害」とも呼ばれます。頭の文字をとって「しめじ」と覚えましょう。

 神経障害は、足などの末梢(まっしょう)の神経に現れる障害です。高血糖が数年続くと、足のしびれや痛みを自覚するようになります。さらに進行すると感覚が鈍くなって、傷ができてもわからなくなり、足の壊疽(えそ)が起こりやすくなります。また自律神経の障害で、立ちくらみや下痢、便秘などの症状も見られるようになります。

 眼の網膜症は、物を見るために重要な役割をしている網膜に現れる障害です。進行しなければ視力低下など自覚症状がないため、眼科で網膜症がないかどうかみてもらう必要があります。最悪の場合失明の危険があり、糖尿病網膜症は、日本における中途失明の原因として2番目に多い病気です。

 腎症は、体内の老廃物を尿として体外に出す腎臓の働きに障害が出ます。尿にたんぱくが出るようになり、進行すると体のむくみや吐き気、だるさの症状が強くなって、最終的に透析が必要となります。進行しなければ自覚症状がないので、初期の治療が非常に重要です。日本で透析導入となった原因疾患のうち、最も多いのが糖尿病腎症です。

■動脈硬化とは?
 糖尿病は動脈のしなやかさが失われて、硬く、狭くなる動脈硬化も引き起こします。壊疽、脳梗塞、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)は、動脈硬化と非常に関係が深い病気で、糖尿病の合併症です。先に説明した「しめじ」の病気と比べて太い血管に生ずるので、「大血管障害」とも呼ばれます。頭の文字をとって「えのき」と覚えましょう。

(中) 糖尿病の代表的な合併症

 壊疽は、糖尿病足病変とも呼ばれます。足に分布する血管と神経が高血糖で障害され、靴ずれややけどなど小さな傷に細菌が感染することで化膿し、皮膚に潰瘍(かいよう)ができて、進行すると足の切断が必要となる病気です。壊疽の予防のため、毎日入浴時などに足に傷がないかどうか、チェックするようにしましょう。

 脳梗塞は、脳の血管が閉塞して血流が途絶え、脳細胞が死んでしまう病気です。命に関わることもある非常に重い病気で、半身が動かない(まひ)、しゃべれない(失語)など、深刻な後遺症が残る場合があります。

 虚血性心疾患は、心臓の筋肉に酸素や栄養を送っている血管(冠動脈)に障害が現れます。狭心症は、冠動脈の狭窄により血流が低下する病気で、心筋梗塞は、冠動脈が閉塞して心筋の細胞が死んでしまう病気です。一般に非常に強い胸痛を自覚し、心筋梗塞は突然死の原因として特に多いです。しかし糖尿病の患者さんは、神経障害のために胸痛を感じにくい場合があります。

 大血管障害は、糖尿病予備軍(境界型糖尿病)の時期から起こりやすくなります。予備軍では、食後に血糖値が上昇することで(食後高血糖)、動脈硬化が進行しやすくなります。予備軍といえども油断はできず、食事療法を行う必要があります。  


糖尿病(下)~治療~

2016.11.29
食事は腹八分目に 週3~5日は運動を

【相談者】
 Sさん 52歳男性。2型糖尿病と診断されました。医師と相談し、まず食事療法、運動療法を行っていくことになりました。

 糖尿病の治療には食事療法、運動療法、薬物療法があります。このうち最も大切なのは食事療法です。食事療法をしないで薬物療法のみを行っても、血糖コントロールは改善しません。また現代人の運動不足も糖尿病の原因になっており、運動療法も重要な治療です。

■食事療法とは?
 食事療法では、性別、年齢、肥満度、身体活動量、合併症の有無などを考慮して、1日の適切なエネルギー摂取量(食事量)を決定します。その食事量の範囲内で、三大栄養素の炭水化物、たんぱく質、脂質をバランスよく食べるようにします。食品の選択には「糖尿病食事療法のための食品交換表」(食品交換表)を使うと便利です。決められた食事量を守りながら、バラエティーに富んだ食品を選ぶことができます。

 食事療法のポイントを表にまとめました。食事療法では、食べ過ぎが問題となることが多いです。野菜を先にたっぷり食べると、食べ過ぎを防ぎ血糖値の上昇を緩やかにすることができます。また食事を抜いたり、夜遅くに食事をしたりすると、血糖コントロールは乱れます。なるべく1日3食食べるようにして、就寝の2時間前に食事をすませるようにしましょう。

(下) 食事療法のポイント

■運動療法とは?
 運動には、血糖値の低下、インスリンの働きの改善など、さまざまな効果があるとされています。

 運動の種類には「有酸素運動」と「レジスタンス運動」があります。有酸素運動は、ウオーキング、ジョギング、自転車、水泳などの全身運動で、レジスタンス運動は腹筋、腕立て伏せ、片足立ちなどいわゆる筋力トレーニングであり、この2種類の運動を組み合わせた方が効果的とされています。

(下) 有酸素運動とレジスタンス運動

 有酸素運動は、少し息がはずむ程度で、おしゃべりができるくらいの強さで行ってください。1日15~60分、食後1~2時間に、週3~5回行うのがベストです。インスリンや糖尿病の経口薬を使用している人は、低血糖を起こす恐れがあるので、食前(空腹時)の運動は避けてください。運動療法の制限や禁止が必要な場合もあり、主治医の先生に相談してください。

■薬物療法とは?
 2型糖尿病では、十分な食事療法や運動療法を2~3カ月続けても良好な血糖コントロールが得られない場合、薬物療法を行います。大きく内服薬と注射薬に分けられます。内服薬には、インスリンの働きを改善する薬やインスリンの分泌を促す薬、糖の吸収を遅らせたり、血液中のブドウ糖を尿に排せつさせたりする薬があります。1種類では良好な血糖コントロールが得られない場合は作用の異なる経口薬を追加することもあります。

 注射薬にはインスリン、GLP-1受容体作動薬があります。インスリンは1型糖尿病の患者さんをはじめ、高血糖昏睡(こんすい)や重症感染症を発症した場合、外科手術を受ける場合、妊娠中の患者さんに不可欠な治療です。また2型糖尿病でもコントロールできないケースや、重症の肝疾患や腎疾患がある患者さんも、インスリン療法の適応となります。

 最後に糖尿病の治療で一番大切なことは治療を中断しないことです。知らないうちに合併症が進行し、治療が困難になることも少なくありません。通院することで合併症の発症、進行を予防することができます。定期的に受診し、適切な検査・治療を受けましょう。


先頭へ