ほっとホスピタル 病と健康
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第2回 脳卒中にならないために
第1回 失神

第14回 ピロリ菌

ピロリ菌(上)

2017.6.27
高齢者の感染率高く 胃がん発症リスク増加

【相談者】
 Aさん 50歳男性。先日テレビの健康番組でピロリ菌の話題が放映されていました。最近ピロリ菌という名前を耳にすることが時々ありますが、どのような特徴をもっているのでしょうか? ピロリ菌を持っていると健康に良くないのでしょうか?

 ピロリ菌は胃の中にすむ細菌(ばい菌)の一種で、「ヘリコバクター・ピロリ」が正式名称です。1983年にオーストラリアの医師によって発見されました。胃の中は胃酸(塩酸)による強い酸性の環境になっています。このため細菌は胃の中にとても生息できないと考えられていました。しかしピロリ菌はアルカリ性のアンモニアを作り、胃酸を中和することによって胃の中で生きていられるのです。

 その後のさまざまな研究によって、ピロリ菌は胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がんなどいろいろな病気と関係していることが分かってきました。ピロリ菌発見は医学の発展に大きく貢献したと考えられ、発見した医師にはノーベル賞が授与されています。

■感染の経路は?
 ピロリ菌は口から胃の中に侵入する(経口感染)と考えられています。胃酸の分泌や体を守るための免疫というシステムが、まだ十分に備わっていない子供の頃に、ピロリ菌が胃の中に入ってくるとすみついてしまう(感染)と考えられています。大人になってからの感染は、ほとんど心配しなくていいと考えられています。

 ピロリ菌の感染率は世代によって大きく異なり、若い年代は感染率が低く、高齢になるほど感染率が高いことが分かっています。上・下水道などの衛生環境が整っていなかった時代に小児期を過ごした高齢者は、過半数がピロリ菌に感染しています。

(上) 日本人のピロリ菌感染率の過去と将来予測

 一方で現代の環境で育った10代の感染率は10%を切っています。昔は衛生が整っておらず、ピロリ菌が付着した水や食物を摂取することによる感染が主だったと推測されています。現在は家族内での感染、特に接する機会の多い母親からの感染が多いと考えられています。食物の口移しも感染の原因の一つかもしれません。

■検査法は?
 吐いた息の成分を検査する呼気試験という方法や、血液や尿、大便で調べる方法、胃カメラの検査中に胃の組織を一部採取して調べる方法など、多くの検査法があります。

(上) 電子顕微鏡で見たピロリ菌(大塚製薬提供)

電子顕微鏡で見たピロリ菌(大塚製薬提供)

 それぞれの検査法には長所と短所があります。検査法によって精度が異なったり、普段服用している薬によっては適さない検査法もあったりします。どの検査法が最適なのかは各人によって異なる場合があるため、専門医に相談するといいでしょう。

■関係する病気は?
 慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんのような身近な胃腸の病気のみでなく、胃マルトリンパ腫、免疫性(特発性)血小板減少性紫斑病など、ピロリ菌は多くの病気に関係することが知られています。ピロリ菌に感染した人はほぼ100%慢性胃炎を発症し、1年に0・3%程度の人が胃がんを発症することが分かっています。


ピロリ菌(中)

2017.7.4
除菌治療で再発防ぐ 検査で成否を判定

【相談者】
 Bさん 50歳女性。元来、胃が弱いと思っていましたが、詳しい検査を受けたことはありませんでした。最近、胃の調子が悪くなってきたので、思いきって病院で胃カメラの検査を受けた結果、胃潰瘍と診断されました。どのような治療が必要なのでしょうか?

「吾輩は猫である」で有名な明治時代の文豪、夏目漱石は、胃潰瘍による腹痛や吐血のような症状に悩まされていたことが知られています。

 胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、何らかの治療でいったん症状が軽くなっても、再発を繰り返すことが多く、治癒が難しいと考えられていた時代がありました。胃潰瘍や十二指腸潰瘍の患者さんの8~9割は、ピロリ菌に感染していると考えられています。ピロリ菌が発見され、胃潰瘍や十二指腸潰瘍との関連が判明した現在は「除菌治療」を行うことにより、これらの病気は治癒が可能になりました。

■どんな治療?
 除菌治療では、2種類の抗菌薬と胃酸の分泌を抑える薬の合計3種類を1週間の間、1日2回内服してピロリ菌を胃内から退治します。除菌治療を受けた場合には、治療が成功したかどうかを判定する検査を後日必ず受けてください。

 1回の治療でうまく除菌できればいいのですが、最近は除菌治療に使用する抗菌薬が効かない耐性菌が増加しているため、不成功に終わることもあります。この場合には別の抗菌薬に変更して2回目の除菌治療を行います。

(中) ピロリ菌の除菌治療の流れ

 1回目の治療による除菌成功率は70~80%程度と言われています。1回目の治療では除菌できなかった場合でも、2回目の除菌治療によって、ほとんどの人は除菌に成功します。除菌治療が成功した場合には、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の再発はほとんどなくなってしまいます。

■注意点は?
 除菌治療を成功させるためには、処方された薬を忘れず内服することも重要です。よく見られる副作用は下痢ですが、味覚の異常や皮膚に発疹ができることもあります。

 なお、治療ではペニシリンを使用するため、ペニシリンアレルギーのある人は保険診療による現行の除菌治療を受けることはできません。

■対象となる病気は?
 除菌治療は従来、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃マルトリンパ腫、免疫性(特発性)血小板減少性紫斑病、早期胃がんの治療後の患者さんに限られていました。2013年からはピロリ菌による慢性胃炎が対象となりました。ピロリ菌に感染した場合には、ほぼ全員が慢性胃炎を発症するため、事実上全てのピロリ菌感染者が保険治療の対象となったということを意味しています。

 せっかく除菌してもまた将来感染するのでは、という質問を受けることがあります。一度除菌に成功すると、また感染することはほとんどないと言われていますので安心してください。


ピロリ菌(下)

2017.7.11
感染者の1割胃がんに 除菌治療で発症低減

【相談者】
 Cさん 65歳男性。兄が胃がんで手術を受けることになり、心配になって私も胃カメラを受けました。幸いにも胃がんは見つかりませんでしたが、ピロリ菌感染による慢性胃炎があるといわれました。兄以外の近親者にも胃がんにかかった者がいるため、私も胃がんになりやすいのでしょうか。

 日本では毎年約5万人が胃がんで死亡しており、世界で最も胃がんによる死亡が多い国と言われています。その原因はわが国の高いピロリ菌感染率にあると言っていいでしょう。

■感染率は?
 若い世代のピロリ菌感染率は低下してきており、10代では10%を切っていると言われています。このため将来はわが国でも胃がんにかかる人は激減すると予想されています。しかし60代以上の世代では過半数がピロリ菌に感染しているため、現在は特に高齢者の皆さんの胃がん対策が重要です。

 ピロリ菌に感染した場合、ほぼ100%慢性胃炎を発症すると言われています。またほとんどの胃がんはピロリ菌感染に伴う慢性胃炎を土台として発生することが知られています。慢性胃炎のように絶えず炎症を起こしている状態というのは、がんが生まれやすい状態であるからです。

 もちろんピロリ菌に感染した人が全員胃がんを発症するわけではありません。一生のうちに胃がんを発症する危険性は、ピロリ菌に感染した人の約10%と推測されています。

 一方で、ピロリ菌に感染していない人が胃がんを発症することは、非常にまれであると言えます。

(下) ピロリ菌と胃がん

■予防は?
 慢性胃炎が胃がん発症の土台になっているため、慢性胃炎を治療することにより、その後の胃がん発生を減らせることが分かってきました。このためわが国では、ピロリ菌感染に伴う慢性胃炎に対する除菌治療が、2013年に保険適用となりました。14年には世界保健機構(WHO)が、ピロリ菌の除菌治療で胃がんの予防を行うことを推奨しました。除菌治療を行うことによって、胃がんの発症を30~40%減少させることができると期待されています。

 除菌治療の恩恵は、本人だけのものではありません。最近のピロリ菌感染は家族内での感染が多いことが分かっています。除菌治療を受けることにより、大切な子や孫への感染が起こらなくなり、結果的に大切な人たちの胃がん発症予防につながる利点もあるでしょう。

(下) ピロリ菌除菌による胃がんの予防

■注意点は?
 現在のところ慢性胃炎を保険で除菌治療することが認可されているのは、世界でも日本だけの素晴らしい制度です。注意すべき点として、除菌治療が成功しても胃がんの発症リスクがなくなるわけではありません。除菌が成功した場合も、定期的な胃がん検診や胃カメラを受けることが重要です。

 胃がんは早期の段階で見つかれば、90%以上の人が命を落とすことがない病気になりました。わが国では胃がんの早期発見・早期治療を目的として、バリウムや胃カメラによる検診が行われています。わが国の胃がんに対する診断と治療技術は間違いなく世界でトップです。これに加えて、ピロリ菌除菌による胃がんの予防効果を活用することにより、胃がんで亡くなる方が一人でも少なくなることを願っています。


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