ほっとホスピタル 病と健康
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第37回 末梢動脈疾患
第36回 脳卒中予防のための血圧管理
第35回 尿路結石症
第34回 骨粗しょう症
第34回 大腿骨近位部骨折
第33回 スキン‐テア(皮膚裂傷)
第33回 低温熱傷
第32回 そけいヘルニア
第31回 めまいを起こす病気
第30回 お薬との上手なつきあい方
第29回 帯状疱疹
第29回 足白癬・爪白癬
第28回 夏風邪
第28回 高山病
第28回 熱中症
第27回 足の病気
第26回 心不全
第25回 シェーグレン症候群
第24回 認知症
第23回 更年期障害
第22回 くも膜下出血
第21回 ウイルス性肝炎
第20回 心筋梗塞
第20回 狭心症
第19回 糖尿病の注意点
第19回 食後高血糖
第18回 肌のトラブル
第17回 前立腺の病気
第16回 脳梗塞
第15回 睡眠時無呼吸症候群
第14回 ピロリ菌
第13回 腸炎
第12回 スポーツ時の脳振とう
第12回 高齢者の慢性硬膜下血腫
第12回 子どもの頭部外傷
第11回 高血圧
第10回 口腔ケア
第9回 不整脈
第8回 消化器内視鏡検査でわかること
第7回 男性不妊症
第6回 肺炎
第6回 感染性胃腸炎
第6回 インフルエンザ
第5回 糖尿病
第4回 乳がん
第3回 野球肘
第2回 脳卒中にならないために
第1回 失神

第13回 腸炎

腸炎(上)~急性腸炎~

2017.5.30
十分な手洗いで予防 かかったら食事は中止

【相談者】
 Kさん 48歳女性。昨夜、会合で出されたお弁当を持ち帰って食べ、夜遅くになり、腹痛と下痢になりました。以前もこのようなことがあったのですが、何か注意すべきことはありますか?

 腹痛や下痢などの症状で受診される人の中で、一番多いのは感染性腸炎と考えられます。

 腸炎は、腸の粘膜に炎症ができた状態のことを言い、日単位で変化する急性腸炎と、月単位で変化する慢性腸炎とに分けることができます。急性腸炎の代表的なものは感染性腸炎や虚血性腸炎などで、慢性腸炎は潰瘍性大腸炎やクローン病などがあります。今回は、感染性腸炎を含む急性腸炎についてお話しさせていただきます。

■原因は?
 感染性腸炎の病原体は、夏季には細菌、冬季にはウイルスが主な原因となります。細菌ではカンピロバクター、サルモネラ、腸管病原性大腸菌、腸炎ビブリオ、ウイルスではノロウイルス、ロタウイルスなどが多く、皆さんも一度は名前を聞かれたことがあるのではないでしょうか。食べ物や水を媒介して体内に入ったり、感染者のせきやくしゃみ、感染物を触った手を経由して口から入ったりして感染します。

(上) 感染性胃腸炎の主な病原体

 腸への血流が悪くなって起こる虚血性腸炎の原因は特定できないことが多いですが、便秘、いきみ、動脈硬化などで起きると考えられています。

 腹痛、水様性下痢、発熱、悪心、嘔吐(おうと)など症状はさまざまですが、ひどい場合だと血が混ざった下痢や、高度な脱水のため急性腎不全を引き起こすこともあります。

■対策は?
 感染性の腸炎を防ぐには、せっけんで十分に手を洗い、ウイルスや菌を体内に取り入れないことが大事です。食べ物の鮮度に気を付け、十分な加熱をしましょう。病原体によってはいくら加熱しても感染を防ぐことができないものもあります。

 特にノロウイルスの感染力は強く、乾燥した汚染物が空気中に舞い上がり吸い込んで集団感染することもあります。便や嘔吐物で周囲を汚染した場合は次亜塩素酸ナトリウムで消毒することが有効です。感染が疑わしい場合は、特に慎重に対応をしましょう。

 虚血性の腸炎は、食物繊維が豊富な食べ物を摂取し、排便習慣に気を付けて、便秘を防ぐことが対策の一つになります。

(上) 急性腸炎の予防

■治療は?
 腸炎の場合、多くはしばらく食事を中止して、腸を安静にすることで症状は良くなります。その場合、脱水を起こさないように水分摂取を欠かさないようにしましょう。ぬるま湯やお茶、スポーツドリンクはお薦めできますが、柑橘系ジュースや牛乳などは腸を刺激して炎症が悪化するので控えましょう。

 腹痛がひどい場合、水分が取れない場合は、速やかに診療所や病院で受診しましょう。必要があれば点滴をしたり、症状が重い場合は入院して治療したりすることもあります。

 薬で下痢を止めることは、腸炎の種類によっては良くない場合がありますので、注意が必要です。

 急性腸炎は、症状を和らげたり抑えたりする治療が主になります。そのため、かからないような予防と、対策が大事になります。日頃から乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌を摂取して腸内環境を整えることも良いと思います。


腸炎(中)~慢性腸炎~

2017.6.6
腸管に炎症 合併症も 食事・薬剤でコントロール

【相談者】
 Sさん 24歳男性。以前から、腹痛や下痢があって、しばらく落ち着いていたのですが、最近になって腹痛と下痢がひどく、血便も出ました。症状が悪化してきたため心配になり来院しました。

 慢性腸炎の代表的なものは炎症性腸疾患で、潰瘍性大腸炎やクローン病が当てはまります。「inflammatory bowel disease」の頭文字をとって「IBD」と呼ばれます。

 原因不明で、国が定めた指定難病に指定されています。ちなみにクローンとは「羊のドリー」で有名なクローンではなくて、この疾患を初めて報告した医師の名前です。

 近年は増加の一途をたどっており、日本での患者数は潰瘍性大腸炎で18万人、クローン病では4万人を超えていることが報告されています。10年前から比べるとそれぞれ約2倍ほどに急増しています。

(中) 炎症性腸疾患

■違いは?
 二つの病気には類似点と相違点があります。消化管に炎症性変化、すなわち潰瘍やただれができる原因不明の病気であることや、症状や若年者が発症しやすいことなどは似ていますが、炎症の起こる部位や、起こり方と深さなどに違いがあります。

 いずれの病気も原因ははっきりわかっていません。何らかの遺伝的素因に食事や衛生環境などの環境因子が加わって、腸内細菌のバランスや腸の粘膜の免疫調節機構が障害され、免疫反応が過剰になり、腸管に炎症が生じると考えられています。

(中) 潰瘍性大腸炎とクローン病の類似点と相違点

■症状は?
 二つの病気とも、腹痛や下痢、血便などの消化管の症状の他に皮膚や関節、目などに合併症を引き起こすこともあります。症状は最初のうちは軽い場合が多いため、病気に気付かないことがあります。クローン病では発熱、体重減少、そして難治性痔瘻(じろう)などの肛門の病気を合併することが多く、これがきっかけで気付くこともあります。

 ファストフードを多く食べると、症状を悪化させると言われており、避けたほうがいいと思います。

 いずれの病気も診断には症状の経過を詳しく聞き、X線検査や消化器内視鏡検査を行い、症状が似ている他の腸疾患と区別するために細菌検査などを行います。全身状態を確認するために血液検査なども行います。

■治療は?
 どちらもまだ根治できる治療法は見つかっていませんが、治療や薬剤の目覚ましい進歩のため、従来の治療ではコントロールが難しかった患者さんについても、良好な経過が期待できるようになりました。

 根治できる治療法がないと言うとがっかりされるかもしれませんが、例えば高血圧症や糖尿病も根治できる病気ではなく、生活、食事、薬剤によるコントロールが重要という点では一緒です。炎症性腸疾患の人の平均予命は健常者の人と変わらないというデータもあります。適切な治療を継続することで再燃をコントロールし、寛解(症状が落ち着いている状態)を維持することが重要です。

 潰瘍性大腸炎もクローン病も、「難病の患者に対する医療等に関する法律」における指定難病に定められていますので、管轄する最寄りの保健所で所定の手続きを行い認定されると、指定医療機関における医療費自己負担分の一部が国や都道府県から助成されます。


腸炎(下)~過敏性腸症候群~

2017.6.13
ストレス社会で急増 生活スタイル改善必要

【相談者】
 Tさん 22歳女性。4月から就職して、電車通勤をしていますが、通勤中に腹痛がひどく、下痢でトイレに駆け込むことが多くなりました。どうしたらよいでしょうか。

 腸炎と同じような症状を引き起こす病気に過敏性腸症候群があります。「腹痛あるいは腹部不快感を伴う便通異常(便秘あるいは下痢)が慢性的に持続するものの、その原因となる器質的あるいは生化学的異常が同定できないもの」のことで、簡単に言えば、内視鏡検査などで異常がないのに、ストレスなどが原因で慢性的に下痢や便秘、腹痛を繰り返す病気のことです。英語での「Irritable bowel syndrome」の頭文字をとって「IBS」と呼ばれます。

■特徴は?
 ストレスの多い現代社会に急増している病気の一つであり、いつ誰がかかっても決して不思議ではありません。日本人の5~10人に1人が「IBS」に当てはまると推定されるほど誰もがなり得る病気です。また、10~30代の若い年代に比較的多く見られる傾向があります。

 出勤あるいは登校途中の公共交通機関などで症状が悪化するなど、大勢の人前、改まった場所、公共の場所などで悪化し、そういうことを想像するだけでも症状が出現することがあります。排便によって症状が軽減するのもこの病気の特徴です。

(下) 過敏性腸症候群 IBS

 検査しても異常が見られませんので、以前は病気というよりも「気のせい」として見過ごされることが多かったのではないかと考えられます。現在は、IBSは治療が必要な「病気」の一つであるとの認識が浸透してきています。

■原因は?
 大腸運動異常と大腸粘膜知覚過敏が便通異常と腹部症状の原因と考えられています。それらの根本原因はまだ不明で世界中で研究されているところですが、近年、セロトニンという神経伝達物質が関係していると言われています。

 腸は第2の脳と言われるほど、脳と神経によって密接に関連しています。一般に、脳が不安やストレスを感じるとその信号が腸に伝わって腸の粘膜からセロトニンが分泌されるのですが、IBSでは脳が受けたストレスの信号が腸に伝わりやすい状態になっていて、腸におけるセロトニンの作用が過剰になっていると考えられています。

 病状の的確な把握で多くの場合、診断は可能です。ただし鑑別が必要なものとして、下痢型IBSでは前回お話しした炎症性腸疾患の発症早期や軽症のもの、便秘型IBSでは悪性疾患による便秘が挙げられます。ですから、X線検査や内視鏡検査が診断には必須ということになります。

■治療は?
 IBSの治療は、食事療法や運動療法をはじめとするライフスタイルの改善から始まります。下痢を繰り返している場合は、香辛料や冷たい飲食物、脂っぽいものなどを避けます。乳製品やアルコールも控えた方が良いでしょう。便秘を繰り返している場合は、香辛料など刺激の強い食品は避けつつ、水分や食物繊維を多く取るようにします。

 その上で薬物療法を行います。従来の治療に加え、最近は下痢型IBS、便秘型IBSそれぞれに対する薬剤が出ています。症状の引き金となるストレスに対しては抗不安薬や抗うつ薬を投与することもあり、状況によっては心療内科あるいは精神科専門医と共同で診療することもあります。

 IBSは自己流の対処を続けているだけでは治りにくい病気です。医療機関で適切な診断と治療を受けることが大切です。


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